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  • 東日本大震災から復興への歩みをみせる被災地の企業や日本テクノの取り組み

震災の混乱時も「断るな、納期厳守」Scene 21

 宮城県登米市にあるデルタ工業 株式会社は、業務用ケーブルなどを製造する企業。東日本大震災の年の12月に他界した前社長が創業者。生前は常に、注文を「断らない」「納期厳守」の2つを徹底していた。他社が難しいと断った案件でも確実に生産して納品する。その実績と信頼を積み重ねてきた結果、取引先は大手電機メーカーを筆頭に数百社にのぼる。従業員は現在29名。
 震災当時の様子を製造部長の伊藤公一さんに聞いた。「机にしがみつくのが精いっぱい。建屋の倒壊も考え、もう終わりだと思いました」。だが、幸いにも被害はほとんどなく、従業員も全員無事。それでもライフラインが止まり、震災直後は何もできなかった。
 約1週間、伊藤さんは毎日会社に行き、携帯電話で問い合わせに対応しながら、片づけられるところから手をつけ始めた。やがてライフラインが戻る。本当の意味での勝負はそこからだった。「生産はできるか」「納期は大丈夫か」と矢継ぎ早に問い合わせが入る。

受けた感謝状は全社一丸で乗り越えた証

 工場も従業員も無事だったことへの感謝と存命中だった前社長の「断るな、納期厳守」の魂が全従業員を突き動かす。負けられない。伊藤さんの指示のもと、すべての注文に対応した。後日、大手電機メーカーが贈った感謝状はそのときの全社一丸となった懸命の努力に敬意を表したものだ。
 やっと落ち着き始めた秋口。前社長が倒れる。みんなを奮い立たせたその創業者が、新年を迎えることはなかった。

厳しい環境下でも懸命に生産活動を継続したことに対し、
取引先から感謝状が贈られた。


 トップを失い経営は混乱を来したが、それまでの取引先でもあり前社長が懇意にしていたハーネス関連の総合商社であるニシウチ 株式会社が手を差し伸べてくれた。現在はそのグループ傘下として一翼を担っている。
 最近では後継者の育成に力を入れている伊藤さん。「前社長のことを思うと何が起きても大丈夫なようにしておきたい」と不測の事態への備えを心掛ける。魂を継承することの大切さと事業を存続させることの厳しさを思い知らされた2011年。伊藤さんはこの年の出来事を決して忘れない。
こぼれ話

 設計室入口のドアが開けられ、その外で扇風機が回っていた。その部屋中で空調も入れずに製造部長の伊藤様がいらっしゃった。「今回は省エネの取材!?」と間違いそうになるような空調管理や消灯が徹底されていた。
 ライフラインは止まったが、それ以外で大きな被害はなかったために、ライフラインが戻った時のFAXや電話がすごかったようである。生産可能な工場を探して、自分たちの仕事を確保する。仕事としては、当然であるが、それを受ける方の身にもなってみようよ、と思うことしきりの取材でした。そんな状況下でも「断らない」「納期厳守」というさらに追い詰めるような理念を貫き通した企業姿勢に感動し、その結果が今のデルタ工業をさらに強い会社に仕上げていったのだと感じながらも、古今東西を問わず課題となる「後継者育成」についても同時に考えさせられました。

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