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  • 東日本大震災から復興への歩みをみせる被災地の企業や日本テクノの取り組み

58件の震災遺構を活用した創造的復興 Scene53

 2016年4月、震度7の大地震に2度も襲われた熊本。「熊本地震記憶の廻廊」は、熊本地震の教訓を確実に後世に伝承し、国内外の防災・減災への対応力の強化を図るとともに、災害に強く、誇れる資産を次代につなぎ、夢にあふれる新たな熊本の創造を目指していく取り組みだ。
 「記憶の廻廊は、熊本地震の記憶を未来へ遺し、学んでもらうための回廊型のフィールドミュージアムです。熊本地震の被害の実情、そこから得られた教訓を後世に伝承するためには、被災現場を震災遺構として残し、現物を肌で感じてもらうことが最も効果的だと考えました」と熊本県観光戦略部観光交流政策課主幹堀部久寿男さんは話す。2つの中核拠点と15の地域拠点、58件の遺構で構成されるフィールドミュージアム。これらを巡り、地域の実像を知り、そこに暮らす人々との交流を育む。そうした観光の動きが、熊本が目指す〝創造的復興〞の実現につながると考えている。「熊本県出身の漫画家・尾田栄一郎先生の人気漫画『ONE PIECE』の麦わら一味の像も各地に設置され、フィールドミュージアムの周遊性向上に力を貸してくれています」。
 地震で崩落した阿蘇大橋の残骸、崩れた壁が痛ましい旧東海大学阿蘇キャンパスの校舎、その敷地に出現した全長約50メートルに及ぶ地表地震断層など、生々しい遺構が地震の大きさを物語る。そうした遺構などを巡ることで自然の脅威を感じ、日ごろの備えの重要さを再認識してほしい。それが熊本県の願いだ。

 「現在、県では2つの中核拠点施設の整備を進めています。1つは県の防災センターで、防災人材の育成拠点として、私たちが培った災害対応のノウハウを、研修等を通じて発信します。2023年3月に完成予定です。そしてもう1つが旧東海大学阿蘇キャンパス内に建設する体験・展示施設です。地震を追体験できる映像シアターや液状化現象を再現する実験装置などの展示を計画しており、教育旅行等で活用いただきたいと考えています。2023年夏にオープン予定です」
 地震のみならず近年は豪雨や台風などの被害も多い。災害に対していかに備えるべきか、過去から学ぶ人間の知力が今まさに問われている。


こぼれ話

 4年前、熊本県の阿蘇地方へ取材に訪れた際、阿蘇大橋が崩落していたため、レンタカーで大回りして向かったことがありました。地元の皆さまの不便さたるやいかなるものかと思っておりましたが、新たな橋が開通したとニュースで聞いた時には「よかったな」と心から思いました。今回この地を訪れ、写真を撮りましたが、不思議な感慨がありました。
 また今回は、復興に関する実施主体が異なるため、本紙には掲載しませんでしたが、熊本の象徴である熊本城にも大きな被害が出ています。とくに城址の石垣は重要文化財のため、元の通りに組み直す必要があります。修復作業は慎重に進められていますが、一説には崩落した石は10万個とも言われており、復旧のめどはたっていません。
 こうした現状を見るにつけ、息の長い復興支援の重要性を痛感します。震災遺構を巡る人が1人でも増え、その方々の行動を通じて熊本の経済が発展することを心より願っています。

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