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  • 東日本大震災から復興への歩みをみせる被災地の企業や日本テクノの取り組み

消費者と築いた信頼の輪は確実に広がっていくScene 30

 株式会社ジェイエイあぐりすかがわ岩瀬(福島県須賀川市)が運営する農産物直売所「はたけんぼ」はJAの直売所で全国トップクラスの売上を誇る。
 「2003年の開業以来、順調に売上を伸ばしてきましたが、原発事故は60キロメートル離れた『はたけんぼ』にとっても大きな打撃でした」(取締役事業部長の佐藤貞和さん)。

生産者と消費者の橋渡し役が担う責任

農産物直売所「はたけんぼ」の外観


取締役事業部長の佐藤貞和さん


 事故後、福島及び関東周辺の野菜や茶などの農作物で放射性物質が検出された。放射性物質は目に見えないだけに、外見から汚染を判断できない。その結果、福島県の農産物は全国の食卓から一時消えることとなった。消費者は買わない。生産者も「福島で農業を続けても大丈夫なのか」と苦しむ。震災後約半年間、佐藤さんも事業をどう続ければよいか悩んだという。
 「その頃、福島を応援する催しによく呼ばれました。しかし行ってみると、放射能汚染の可能性があるから安く売ってほしいとたびたび要求されたんです」。それに対し佐藤さんは、配慮のない要求に応えるのでなく、自分たちの誇りを取り戻し、地元で自信を持って農作物を売れる仕組みづくりが必要と考えた。
 当時の福島県は、放射性物質が土の中に滞留する可能性があることから、農作業を行なわないよう通達が出ていた。佐藤さんはまず県の農業普及所に出向き、市町村単位で土地ごとに作付けの是非を判断すべきであり、収穫された作物については放射性物質の検査を義務づけ、基準値以下の農産物のみ出荷するよう、体制を整えるべきだと訴えた。
 同時に自社の体制整備にも取り組んだ。まず全品検査を基本に据える。そのうえで国の基準より10倍厳しい自主基準を課した。現在、国は放射性物質の含有量を1キロあたり100ベクレル以下として農産物の出荷基準を定めているが、「はたけんぼ」で販売されるのは同10ベクレル以下の農作物のみだ。
 「事故から6年近く経った今、放射性物質はほとんど検出されませんが、全品検査は今後も続けます。生産者と消費者の間に私たちが立ち、対面で話すから伝わるし、信じてもらえる。信用してくれたお客様には次も買ってもらえる。そうしてできた信頼の輪は広がることはあっても決して小さくはならないと考え、事業を続けています」。
 残念ながら福島県産品の購入を控える人がいるのも事実である。その一方、「はたけんぼ」には県外からの来店客が増えつつある。信頼の輪は着実に広がっている。
こぼれ話

 「国の基準はクリアしているから、と自社基準を超える農産物を売ったことが後でわかれば、消費者は二度と私たちの農産物を買ってくれないですよね。だから、私たちは絶対消費者を裏切るわけにいかないのです」はたけんぼ代表の佐藤さんの言葉は重いです。福島応援フェアなどで「汚染されているかもしれないんだからまけてよ」と言われ、悔しい思いをしてきたというはたけんぼの皆さん。現在、県外からも大勢のお客様が来るという「輪」が今後もさらに広がっていくことを願ってやみません。

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