「しるしの価値」を、この先の100年も #46/シヤチハタ 株式会社
文具・印章メーカーのシヤチハタ株式会社(本社・愛知県名古屋市)。インキ内蔵の浸透印である「ネーム印」「Xスタンパー」は多くの人が一度は使ったことがあるだろう。
創業は1925年。100周年を迎える希代の長寿企業だ。乾かないからインキ補充が要らない画期的商品「万年スタンプ台」を開発し、押印が不可欠の当時のビジネスシーンで業務効率を飛躍的に向上させたのが皮切り。そこから「使い捨てでないモノづくり」の精神を受け継ぎ、どの商品も「よいものを永く使う」を前提につくる。事業全体がすでに「エコ」だ。
毎年、環境報告書を公表しているが、ここまでの道のりは「自然な流れだった」と広報室室長・向井博文さんは言う。1998年に全社的な環境対策の推進を決定し、その2年後にはISO14001を取得。紙や電気の使用量削減から着手し、照明のLED化や製造機器の高効率化など設備改善も実施した。事業活動に伴う廃棄物のリサイクル率は90%以上を維持する。
定常的な環境への取り組みができるようになると「次のステップとして生物多様性保全の取り組みを進めました」(品質保証課担当課長・伊藤一夫さん)。本格的な活動は2019年から。工場のある愛知県稲沢市で市民団体が管理する「ビオトープながおか」の環境整備に参加した。絶滅危惧種ミナミメダカの保全、池の注水管理、除草作業、生態系観察会の運営などに協力し、地域の環境保全に力を入れている。
こうした活動が環境省「自然共生サイト」や愛知県「あいち生物多様性認証企業」に認証されるなど、高い評価を受けた。「今できることをしっかりと継続していくとともに、水辺の保護の次は、森林にも取り組めたらよいと考えています。いつかは〝シヤチハタの森〞をつくりたいですね」(伊藤さん)。

2021年には、規制化学物質の厳格な管理を進めるため専門部署「分析センター」を新設した。製品を構成するインキ、ゴム、樹脂に、禁止されている物質が含まれていないか検査を行う。ここは、その能力・信頼性を評価する国際規格ISO/IEC17025の認定を取得しており、公正・中立で正確な分析が可能な試験所として認められている。
ニーズに合わせた商品を製造すればそれぞれがオーダーメイド扱いになり1件1件の検査が必要だが社内に試験所があればコストを削減できる。「当センターの役割は、より一層の製造責任を果たすためでもある。それまで禁止や制限のなかった物質が法改正で規制対象になり既存製品を速やかに対応させなくてはならないとき、違う材料で同じ品質を維持するための指摘と改善がスムーズにできます」(分析センター課長・稲垣裕久さん)。
広報室主任・髙末迪予さんは「ビジネス用途から趣味としての活用など文具が活躍する位置づけは時代によって常に変化しています。それでも〝しるしの価値〞を提供してきた当社の商品は求め続けられている。それは常にユーザーファーストを意識してきたからだと考えます。これからもお客様の求めるもの、時代の変化に応じたモノづくりをしていきます」と語った。
ニーズの変容には一般消費者の環境意識の高まりも含まれる。バイオマスプラスチックを使用した商品開発を行うなどわかりやすい「エコな商品」の製造も欠かせなくなる。従来の印章や文具などの製品開発にとどまらず、デジタル領域や工業分野にも続々と事業展開している同社。創業100周年を迎え、これからも愛され必要とされる企業であり続けるため、環境配慮を経営の強みとして生かしていく。
こぼれ話
シヤチハタさんでは100周年を記念した商品を発売しています。そのうちのひとつが「いろもよう1925」。パッケージデザインやインキ色のラインナップは創業当時をイメージする一方、スタンプ台やインキの性質には最新技術を盛り込んでいます。パッケージに書かれた「鯱旗印スタンプ台」の商品名でさえ、レトロを感じさせ、文具好き女子のココロをくすぐります…!



またもうひとつの100周年記念商品は「ネーム9 創業100周年カラー」。”日本の歴史を紡ぐ5色”として、世界遺産をイメージしたカラーリングのケースが登場しています。黒色のケースのネーム印はご自宅や職場で使っている方も多いのではないでしょうか。こちらの5色は落ち着いた色合いにマットな金色のパーツ。ほかにはない一品が手元にある特別感が消費者の皆さんに喜ばれているようです。かくいう私も、取材でこちらの商品を知り、真剣に購入を検討しています(笑)。白川郷か、日光か……!通常色もですが、書体やインキ色を選んで注文できるのも楽しいですね。

なお、シヤチハタさんはインキだけでなく、ケースなどの製造も、そしてその製造につかう金型までも自社で作られているとのこと。まさかのお話に「か、金型もですか!?」と聞き返してしまいました。根っからのモノヅクリ企業さんなんだなぁ……!と感嘆してしまいました。






















































