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私たちは何を捨てているのか ──食品ロス、コロナ、気候変動|エコブックス

温暖化対策、食品ロスを見逃すな

 「食品ロスは温暖化の主犯格?」──これは本書の中にある見出しの1つだ。気候変動対策として温室効果ガスの排出削減が叫ばれているが、大きな排出源を忘れているのではないかと疑問を投げかけている。
 食品ロスとは、本来食べられるにもかかわらず捨てられる食品のこと。規格外品、返品、売れ残り、食べ残し、野菜の皮を厚くむき過ぎるなどの過剰除去も含まれる。それらは取るに足らない無駄として済まされるものではなく、安全保障、感染症対策、貧困や飢餓、そして気候変動といった国際的な問題に深く関わっていることを各種データや多数の事例を引きながら明かしていく。
 気候変動分野では、国連食糧農業機関(FAO)の警告を挙げる。温室効果ガス排出量が多い国の第1位は中国で、次いでアメリカ、インドと続くが、世界中の食品ロスを国に見立てた場合、インドを超えて世界第3位の排出源になるという指摘だ。気候変動を懸念するニューヨーカーは88%いるが、そこに食品ロスが関係するとの認識を持つ人はわずか9%という米企業の調査結果も示す。
 化石燃料の使用を再生可能エネルギーに切り替えるのは容易ではないが、食品ロスの削減はもっと身近に取り組める。そのための日常生活で役立つ情報も紹介する。例えば卵。賞味期限が過ぎても、冷蔵庫で保管したひびのないものならしっかり加熱すれば3ヵ月は食べられる。ゆでるより生のままのほうが日持ちする。冷蔵庫にはパックのまま入れる。食品ロス削減は「わたしたち一人ひとりが今日からはじめられる気候変動対策」(166ページ)だと呼びかける。
 著者が新聞サイトなどで過去に発表した複数の記事を再編集した。よって内容の重複もあるが、通読で繰り返し目にすれば理解も深まるだろう。



井出留美 著私たちは何を捨てているのか ──食品ロス、コロナ、気候変動
井出留美 著私たちは何を捨てているのか ──食品ロス、コロナ、気候変動

ちくま新書 1,012 円(税込)

井出留美 著
食品ロス問題ジャーナリスト。奈良女子大学食物学科卒。博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。主な著作に『SDGs時代の食べ方』、『いちばん大切な食べものの話』小泉武夫氏と共著(以上ちくまQブックス)、『捨てないパン屋の挑戦』(あかね書房)、『食料危機』(PHP新書)、『あるものでまかなう生活』(日本経済新聞出版)、『賞味期限のウソ』(幻冬舎新書)、『捨てられる食べものたち』(旬報社)など。


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