• 最新エネルギー市場
  • 世界と日本のエネルギー市場について解説する識者コラム。寄稿は常葉大学の山本隆三名誉教授です。

温室効果ガス削減、継続できるか

 日本の温室効果ガス(GHG)の排出量が減少しています。2022年度のGHG排出・吸収量は二酸化炭素(CO2)換算(以下同)で10億8500万t。前年度から2.3%、2013年度比では22.9%(3億2210万t)減少しました。この趨勢すうせいが続けば、2030年度の2013年度比46%削減の目標にも届きそうですが、実現するでしょうか。
 GHGの減少には省エネや節電努力に加え、失われた30年と呼ばれる低経済成長が影響しています。日本のGHGの9割以上を占めるCO2の排出要因であるエネルギー消費が大きく減ったのです。最終エネルギー消費はリーマンショック前の2007年度から2022年度には約25%落ち込んでいます。発電部門はCO2排出量の約4割を占めますが、同じ2022年度の発電量は東日本大震災前の2010年度から12%減少しています。エネルギー消費の減少率が高いのは製造業です。製造業が力を失ったことが国内総生産(GDP)にも影響し、90年代半ばに世界のGDPの約18%を占めていた日本は今4%ほどになっています。
 GHGが減少する理由が低経済成長というのは歓迎すべき事態ではありませんが、今後のエネルギー消費は大きく減らないと思われます。その理由は、AIなどの広がりによるデータセンターの電力需要です。電力中央研究所の予測では、データセンターの需要は2050年に最大で現在の10倍以上になり、電力需要を約20%押し上げます。
 さらに、電気自動車の普及も需要を増やします。トラック、長距離バスは水素利用の燃料電池車になるとしても、乗用車の電動化だけで電力需要を5%増やします。燃料電池車などに供給する水素をCO2排出なしに製造する方法は、水の電気分解を非炭素電源で行うことですが、大量の電気が必要です。政府が見込む2050年に2000万tの水素を、水の電解で製造すると電力需要量は今の倍になります。
 脱炭素社会に向かう中で電力消費は大きく増えますが、発電には非炭素電源の再生可能エネルギー(再エネ)か原子力が必要です。一方、ロシアが引き起こしたエネルギー危機は、再エネの投資額を大きく上昇させました。再エネ設備は、火力や原子力と比べて大量の資機材とレアアースなどの重要鉱物を必要とし、インフレの影響を大きく受けるからです。
 今、小型モジュール炉(SMR)と呼ばれる新型原子炉に注目が集まっている背景に中国の原材料に依存せず競争力のある電気が得られることがあります。ビル・ゲイツ氏のテラパワーのSMRは今年米国で着工予定です。ただ、非炭素電源の大量導入はすぐに可能になるわけではありません。当面化石燃料を利用した発電も必要でCO2排出量の増加も予想されます。その状況をどう乗り切り減少傾向を維持するのか、これからが正念場です。

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