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鎮守の森 増補版|エコブックス

素顔の緑が生きる森の役割

 2000年発刊の単行本が2007年に文庫化され、そこに2編の対談などが加えられ2024年8月に復刊された。四半世紀も読み継がれているロングセラーだ。時代を経ても、いまだ目をそらしてはならないテーマが語られていて、現代社会がそれを受け入れている証だろう。
 著者は世界各地で数千万本ともいわれる植樹をした植物生態学者。植える木の種類は各地特有の潜在自然植生を調べ上げて決める。建材目的のスギやヒノキ、美観のためのウメやサクラではない。人の手を一切排除したときその地の自然環境が育む植生「すなわち土地本来の素肌、素顔の緑である」(43ページ)。日本の多くの地域ではシイ、タブノキ、カシ、ブナ、ミズナラなどのつくる森が該当するようだ。
 それが「ふるさとの木によるふるさとの森」で、日本各地にある神社仏閣、古い屋敷、山の尾根、急斜面、渓谷沿いに残されてきた「鎮守の森」だと説く。なお「鎮守の森」は植物生態学などの分野で国際的に通用する用語になっているという。
 メソポタミアやエジプトなど世界の古代文明を見ても、人間の干渉で土地本来の植物はほとんど消失したのに対し、日本人の祖先は都市や田畑の造成で自然を開発しても一部にそれを保持した。
 それが今では自然を敬う気持ちは薄れ、潜在自然植生の森は急速に姿を消していると警告する。
 本文は3部構成。第1部で潜在自然植生などの解説と植樹活動の事例を紹介、残る2部で著者が宗教者と哲学者、それぞれと対談した内容を収録する。鎮守の森が植物生態学的な重要性を持つだけでなく、心の安らぎや思想面でも欠かせない存在であると示している。



中公文庫 924 円(税込)

宮脇昭 著
1928年、岡山県生まれ。広島文理科大学生物学科卒業後、ドイツ国立植生図研究所研究員。横浜国立大学教授、同大学大学院環境科学研究センター所長、国際生態学会長を歴任。公益財団法人・地球環境戦略研究機関 国際生態学センター終身名誉センター長。
日本を含む世界各地で潜在自然植生理論に基づく防災・環境保全林などの植樹を進めた。


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