• 日本の環境教育
  • 全国各地の環境教育授業の様子をレポート。地域の特色を活かし地元住民と協力しながら進める授業や、企業が出張して行う出前授業などユニークな取り組みを紹介

早稲田大学本庄高等学院 水路の流れで電気をつくる

埼玉県本庄市にある早稲田大学本庄高等学院では、文部科学省の進めるスーパーサイエンスハイスクール(SSH)の指定校として先進的な科学教育に取り組んでいる。

取り組みの一つが、地域と連携した河川の環境改善活動だ。本庄市内中心部には元小山川という小河川が流れている。さらに学校から車で5分ほどの場所にはこの川の源流となる湧き水がある。元小山川は、近年の生活排水の増加により水質が悪化。水質改善を望む地元の人々の声を受けて、同校では市内のNPOや、近隣の小学校と合同で水質調査や生物の生態調査を続けてきた。

目指すは持ち運びできる発電機

発電機づくりに挑戦
2年生の市川なつみさんが担当するのは、農業用水路から元小山川に導水する箇所に、発電機を設置する研究。つくった電気は、水質改善に利用する農業用水が、その取り込み口で詰まってしまわないよう、泥などを撹拌するための動力源に使う。それを自然エネルギーからつくり出そうという試みだ。
研究当初は、太陽光発電に取り組んだが、季節や天候、時間帯によって変動が大きく、安定した電力供給が難しい。そこで新たに水力発電に着目し、スクリュータイプなど試行錯誤を経て、一昨年からは水車式の発電研究に取り組んでいる。
市川さんは「東日本大震災をきっかけに、電気の重要性や自然エネルギーの実用化に興味を持つようになり、発電機の研究を先輩から引き継いだ」と言う。目指すは「持ち運び可能な小水力発電」。災害時はもちろん、アウトドアクッキングなどにも利用できる小型の発電機を目標にしている。
水車本体の材料に選んだのは漬物用の樽の蓋と、プラスチックボードでつくった羽根。どちらもホームセンターで購入した。発電機部分には、自転車のライトに使用されるハブダイナモを流用している。
「羽根の枚数や角度を変えてより効率的な条件を調べていますが、効率のよい羽根の形がかならずしも耐久性と結びつかない。また耐久性を重視すると、軽量化ができず、利用者の希望に沿わないものになってしまう」と市川さんは研究の難しさを話す。また発電の難しさを知ってからは、普段の生活でも、これまで以上に電気を大切に使う気持ちが強くなり、消灯などの省エネ行動を、自然に行うようになっていった。

ホームセンターで購入した漬物樽の蓋にプラスチックボードの小片をつけ水車を作成。

 

膨らむ電気への興味
昨年夏から姉妹校Singapore National Junior Collegeの生徒も研究に参加。「発電機を水に浮かべると水位が一定して発電量も安定するのではないか」などのこれまでにない新しい発想が提案され、学院の生徒のよい刺激になっている。
指導教諭の半田亨さんは「研究ではフィールドワークと発表の機会を大切にしています。生徒は実際に河川に赴き、実験を繰り返す。新しい発見に驚き、成功の達成感を味わい、それが研究継続のモチベーションになっています」と話す。
市川さんも「研究にかかわる前、日本はどうしてもっと自然エネルギーを活用しないのか、と単純に思っていました。でも研究の難しさやコストなどの課題を前にして、簡単な話ではないとわかった。そして、さらに自然エネルギーに興味を持つようになったんです」と話す。
姉妹校との意見交換、フィールドワークでの驚きと達成感。それらに後押しされて、電気への興味はさらに膨らむ。


元小山川につながる水路に試作機を設置してデータをとる。
この作業を繰り返し実用化できる数値に近づけていく。
こぼれ話

上越新幹線の本庄早稲田駅を出て進んでいくと、学院のキャンパスが広がっています。ここは、浅見山、大久保山、塚本山の三山を中心とした、東西約1.8km、南北約1 kmほどの丘陵地帯。また一帯は、大久保山遺跡と呼ばれるエリアでもあり、古くは縄文・弥生土器、古墳時代の竪穴住居跡など、さまざまな出土品が発見されているそうです。
周辺にはヤマザクラやツツジ、ハギ、ツバキなど季節の花、自生しているキノコなども豊富にあり、キャンパスであるとともに自然の宝庫。恵まれた環境が広がっています。
訪問した日、広いキャンパスのなかで道に迷ってしまったのですが、散歩に訪れていた地元の方に連れられてなんとか校舎までたどり着くことができました。道案内をしてくださった方は、キャンパスの散歩が日課になっているそうで、季節ごとの自然は毎日来てもあきない、と笑顔でお話しくださいました。

駅から学院へと続く道の先に、浅見山丘陵が広がる。

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