エネルギー安全保障に続出する課題
2022年の欧州発のエネルギー危機は、日本の電気料金を対前年同期比で3割上昇させました。政府は激変緩和措置として翌年1月から電気とガス料金に補助金を支出しています。この危機発生の原因はロシアのウクライナ侵攻です。
ロシアは世界一の化石燃料輸出国です。欧州連合(EU)は輸入する天然ガスと石炭の半分弱、石油の4分の1をロシアに依存していました。中でも天然ガスはEU需要量の4割がロシアからの供給でした。2022年2月のウクライナ侵攻半年前からロシアは天然ガスのEU向け輸出量を抑制し単価を上昇させ、総収入を増やしたのです。
ウクライナ侵攻後、EUはロシアに戦費を渡さないためロシア産化石燃料の輸入量削減を進めます。2022年8月に石炭、12月に原油の輸入禁止に踏み切りますが、依存度が高い天然ガスは依然禁輸できずにいます。一方、ロシアは天然ガスの供給量を削減しEU諸国に音を上げさせようとしました。このため需給バランスが大きく崩れ欧州市場の天然ガス価格はコロナ禍の底値から数十倍も上昇しました。
EU諸国は発電用の天然ガス消費を抑え石炭火力を増やしたため、2022年秋には国際石炭価格も史上最高値をつけました。日本の輸入する液化天然ガス(LNG)の価格は欧州ほど上昇しませんでしたが、石炭価格は欧州と同レベルまで上昇しました。日本の発電はLNGが35%、石炭が32%を担っているので日本の電気料金も大きく影響を受け上昇しました。
1973年の第一次石油危機で石油依存の危うさを知った日本を含む主要国は、エネルギー供給を分散し、天然ガス、石炭、原子力の利用を進めました。その結果、世界一の化石燃料輸出国ロシアが市場を左右する力を持ちました。ロシア依存から脱却すべく主要国は一斉に脱ロシア産化石燃料を進めると同時に脱炭素の実現も狙い自給率向上策に舵を切りました。再生可能エネルギーと原子力発電設備の導入が政策のカギになります。
しかし主要国はロシアと並ぶ独裁国家とされる中国への依存に悩むことになりました。世界の太陽光パネルの7割以上、風力発電設備の主要部品の6〜7割の供給元は中国で、原料になるレアアースなどの重要鉱物の大半も供給しています。脱ロシアを進めた結果、中国依存になれば、エネルギー安全保障問題の解決にはなりません。
中国依存比率をどう下げるかが、いま日米欧の課題となっています。主要国は今後、解決策を見つける必要があります。
常葉大学名誉教授。NPO法人国際環境経済研究所所長。住友商事地球環境部長、プール学院大学(現桃山学院教育大学)教授、常葉大学経営学部教授を経て現職。経済産業省産業構造審議会臨時委員などを歴任。