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暗闇の効用|エコブックス

人工の光が呼び込んだ環境問題

 化石燃料の活用は人類に多大な恩恵をもたらした。夢の素材ともてはやされたプラスチックも同様だ。それらを世に送り出した先人は、やがて気候変動問題や海洋汚染につながるとは思いもしなかっただろう。そして暗闇の不便を解消できる人工の光も、例に漏れず地球規模で環境を害するものになっている。その事実を、心に染み入るような叙情的な言葉でつづる一冊。
 著者は作家でもあるスウェーデンのコウモリ研究者。光害(ひかりがい)と呼ばれる、照明による動植物や人間への悪影響に関する研究でも知られる。
 ミツバチと同等に重要な送粉者であるガが街灯に惑わされ役割を果たせなくなれば昆虫だけでなく植物の生態系をも乱す。月明かりを目安にするサンゴの交配は明るすぎる陸の光によって阻害される。造礁できなくなれば多くの生物がすみかを失う。昼と夜の境界が曖昧になることで夜行性の動物をはじめあらゆる生物の行動パターンが変わってしまう。それがどんな結末を招くのか、私たちはほとんど何も知らないと指摘する。
 温暖化抑制やプラごみの廃絶は可能ではあるが非常に困難だ「しかし、照明を抑えたり消したりするのは、明らかに簡単だ。少なくとも技術的には、あらゆる環境問題のなかで光害が最も簡単に解決できる。過剰な照明を消せば、効果はすぐに現れるし、先送りされる別の問題が生じるわけでもない」(204ページ)。



太田出版 2,420 円(税込)

ヨハン・エクレフ 著
スウェーデンのコウモリ研究者・作家。コウモリの視覚に関する研究、および、最近では光害に関する研究で知られる。スウェーデン西部に住み、自然保護活動とコピーライティングに従事。20年近くコウモリの研究をおこなった後、現在は自身のコンサルタント会社を経営する。コウモリ、夜の生態系、自然に優しい照明の専門家として、公共事業機関、風力発電事業者、自治体、都市計画者、環境保護団体などをクライアントに持つ。本書は、英語に翻訳された2冊目の著書である。

永盛鷹司 訳
翻訳家。東京外国語大学大学院総合国際学研究科言語文化専攻、博士前期課程修了。主な訳書に『家庭の中から世界を変えた女性たち アメリカ家政学の歴史』(上村協子・山村明子監訳、東京堂出版、2022年)など。


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