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家は生態系 あなたは20万種の生き物と暮らしている|エコブックス

身近にある生物多様性損失のリスク

 かつて疑問視さえされていた地球温暖化は、厳しい猛暑や豪雨などを目の当たりにすることで、多くの人が身近で喫緊の課題と認識するようになった。一方、同じ環境問題でありながら急激な損失が懸念される生物多様性は顕在化するリスクが見えにくく他人事のように感じる人も多い。だが、その危機は手の届く目先にも、自分の身体の中にも迫っていると気づかせてくれるのがこの本だ。
 生態学者の著者が行った一般家屋にいる生物種の調査結果を中心に、生物たちがもたらす恩恵や悪影響、工業利用の可能性まで、ときにユーモアを交えながら紹介する。
 家々の調査でこれまでに見つかった生物は細菌や節足動物など約20万種という。ほとんどは無害もしくは有益な存在で、人に害を及ぼすのはそのうちごく一部。それでも人は薬剤やその他の方法ですべてを駆除しようとする。結果、種の多様性は失われ、その駆除法に耐性を身につけた害のある生物が繁殖してしまう。
 水道の浄化システムですべての生物種を死滅させる仕組みをつくろうとするとそれが裏目に出て病原菌に有利な環境をつくってしまう怖れがあると示唆し、結局「成功の鍵は、(たいていそうなのだが)生物多様性を重んじることなのだと――つまり、自然が人間よりもはるかに効果的にやってくれている仕事を重んじることなのだと――判明するだろう」(143頁)と説く。

白揚社 2,970 円(税込)
ロブ・ダン 著/今西康子 訳
ロブ・ダン ノースカロライナ州立大学教授、コペンハーゲン大学自然史博物館教授。著書に『世界からバナナがなくなるまえに』『心臓の科学史』(以上青土社)、『わたしたちの体は寄生虫を欲している』(飛鳥新社)、『アリの背中に乗った甲虫を探して』(ウェッジ)がある。ノースカロライナ州ローリー在住。

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