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サイレント・アース 昆虫たちの「沈黙の春」|エコブックス

いまだ鳴り響く「沈黙の春」の警鐘

 このままでは、うららかな春にも鳥のさえずりがまったく聞こえなくなる――。1962年発表の『沈黙の春』(レイチェル・カーソン)は環境保全活動のバイブルとされる書籍だ。農薬などに使う化学物質が自然を破壊すると警鐘を鳴らした。その後、毒性が指摘されるDDTの使用は世界的に禁止されていき問題は解決したかに見えた。
 だが「カーソンは一つの戦闘には勝ったのかもしれないが、戦争全体に勝ったわけではなかった」(119頁)と生物学者である著者は説く。当時よりも毒性の強い新たな農薬が使われ土壌や河川を汚染した。最初に犠牲になるのは小さな虫たちで、1970年以降少なくとも50%の昆虫が失われたと考えられ、その割合は90%の可能性も十分にあると記している。
 昆虫は、食物連鎖の起点である植物の受粉を助け、ほかの生物の死骸や排泄物の分解も担う。地球に暮らすすべての生き物に欠かせない存在だ。本書では急速に生息数が少なくなっている現状と減少の原因、そしてどのような対策が必要かを示している。
 架空の未来を描いた章では「ミツバチ、土壌、糞虫、ミミズ、きれいな水と空気がなければ、食料を生産できず、食料がなければ経済もない」(289頁)とカーソンの鳴らした警鐘を引き継ぐように沈黙の世界を表現している。



NHK出版 2,750円(税込)

デイヴ・グールソン 著
生物学者。1965年生まれ。英サセックス大学生物学教授。王立昆虫学会フェロー。とくにマルハナバチをはじめとする昆虫の生態研究と保護を専門とし、論文を300本以上発表している。激減するマルハナバチを保護するための基金を設立。一般向けの著書を複数出版している。

藤原多伽夫 訳
翻訳家。1971年生まれ。静岡大学理学部卒業。おもな訳書にブライアン・ヘア , ヴァネッサ・ウッズ 『ヒトは〈家畜化〉して進化した』、パトリック・E・マクガヴァン『酒の起源』(ともに白揚社)、スコット・リチャード・ショー『昆虫は最強の生物である』、チャールズ・コケル『生命進化の物理法則』(ともに河出書房新社)、ジェイムズ・D・スタイン『探偵フレディの数学事件ファイル』(化学同人)ほか。


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