AIによる電力需要増 供給地はどこに
前回、温室効果ガス削減の見通しに触れた内容の中で、日本の電力需要が増える可能性を指摘しました。需要が増える大きな理由の1つは生成AIの普及です。
著作権の問題やAI提供企業の収益確保策が普及の妨げになるとの指摘もありますが、これまでの科学技術の進展を見ればAIの市場は大きく成長すると考えられます。
グーグルの1検索の電力消費0.3Whに対しChatGPTの1使用は2.9Whで、電力消費量は約10倍です。AIの利用が増えて必要になるのは、データセンターとそれを支える半導体。共に安定的かつ低廉な電力供給を必要とします。
加えてGAFAと呼ばれるIT企業は、二酸化炭素(CO2)を排出しない電力供給を望みます。再生可能エネルギーだけでは十分な安定供給が難しいことから、一部企業は、同じくCO2を排出しない原子力の電気も購入対象にしたと報じられています。
AIによる電力需要量の増加は、AIの拡大スピードとデータセンターの節電の進捗によるため正確な予想は困難ですが推測はされています。アメリカの電力研究所は、2023年に約1,500億kWhだった同国データセンターの電力需要量が、2030年に最大4,000億kWhになり、需要量全体の9%を占めると予測しています。
AI利用の拡大に伴い日本でもデータセンターの建設が進むと思われますが、どこにつくられるでしょうか。アメリカでは、インターネット利用者の多い大都市を有するニューヨーク州やカリフォルニア州などと、人口の少ない州に、立地が二分しています。AIの需要地でない過疎の州に建設される理由は、安い土地代と電気料金です。
アメリカの電気料金は州により大きく異なります。ハワイ州やカリフォルニア州の電気料金は日本を上回りますが、全米平均では日本の半分程度です。石炭火力あるいは水力発電が主体の州だとさらに安くなります。大量の電力を利用するデータセンターは、需要地から離れてもコストが安い場所を選択することもあるわけです。
日本でも安定供給と競争力のある電気料金が見込まれる原発立地点の近くで土地を探す企業が現れているといわれています。またデータセンターと半導体工場を主体に地域の成長戦略も描けますが、大きな電力需要量を現在の発電設備で供給するのは可能でしょうか。将来の電力供給が不透明なら、安定供給が必須の事業は海外に流出するでしょう。
日本は現在、失われた30年を脱却する大きな転換点にあると思われます。長期低迷からの脱却の実現には、安定的に大量の電力を供給できる非炭素電源が必要です。
十分な電力設備の確保をどう実現するのか、政府はいち早く政策を打ち出す必要があります。
常葉大学名誉教授。NPO法人国際環境経済研究所所長。住友商事地球環境部長、プール学院大学(現桃山学院教育大学)教授、常葉大学経営学部教授を経て現職。経済産業省産業構造審議会臨時委員などを歴任。