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【特集】2023年 改正省エネ法施行
――省エネ法の概要と改正のポイント

昨年(2022年)5月、改正省エネ法が成立し、2023年4月より施行となりました。
同時に、正式名称が「エネルギーの使用の合理化及び非化石エネルギーへの転換等に関する法律」へと見直されました。省エネの促進と、再生可能エネルギーの導入拡大を目的とした本法律。これまでの変遷や2023年の改正のポイントを見ていきましょう。



時代に合わせ改正を繰り返す「省エネ法

1970年代、中東での原油価格高騰をきっかけに、日本は2度にわたるオイルショックに見舞われました。これを受け、「貴重なエネルギー資源である石油を大切に使っていこう」という指針のもと、1979年に「エネルギーの使用の合理化に関する法律(省エネ法)」が制定されました。

本法律では、工場や輸送関連など特定の事業者に対して、省エネに取り組む際の目安となる判断基準を示し、さらに一定規模以上の事業者には、エネルギーの使用状況の報告義務などが課されました。
自動車や家電を購入する際などに「トップランナー制度」という言葉を耳にしたことがあるかもしれません。これは新商品が出る際は、現商品よりも省エネ性能が優れている機器にすることを目標とした制度であり、これも本法律によって策定されたものです。

            省エネ法上の努力義務の対象者
          (経済産業省 省エネポータルサイトより)

一方で、1979年の制定から40年以上が経過した現在に至るまで、石油をはじめとするエネルギーを取り巻く状況は大きく変わってきました。

1980年代初頭、国内の発電量の約半数は石油などの化石燃料が担っていました。その後、石油の割合は徐々に減り、原子力・石炭・天然ガスなどが台頭。2011年の東日本大震災後には、原子力がその数を減らし、天然ガスや再エネなどの割合が大きくなりました。
そして現在、国内では「2050年カーボンニュートラル」の実現や、温室効果ガス削減に大きく舵が切られています。そうした流れのなかで、省エネ法も時代の変遷に合わせて改正を重ね、今回(2023年4月)の改正が9回目となります。

【これまでの主な改正とそのポイント】
1979年 省エネ法制定
・1998年 2度目の改正:前年の京都議定書採択を踏まえ、省エネ対策を強化(トップランナー制度の導入など)
・2013年 6度目の改正:東日本震災後の電力需給を踏まえ、「電力需給の平準化」を目的に追加
2018年 8度目の改正:2030年のエネルギーミックス(電源構成)実現に向けて事業者の連携による省エネを強化
・2022年(2023年施行) 9度目の改正:第6次エネルギー基本計画をふまえ、日本のエネルギー需給構造の転換を後押し

2023年4月の改正のポイントは?

省エネ法は、今回の改正にあわせて、その名称も下記の通り見直されました。

(旧名称)
「エネルギーの使用の合理化に関する法律」

(新名称)
「エネルギーの使用の合理化及び非化石エネルギーへの転換等に関する法律」

この名称変更からも分かるように、今回の改正のポイントは、本法律の対象範囲に再エネをはじめとする「非化石エネルギー」が組み込まれたことです。またそれを受けて、非化石エネルギーへの転換を推進する制度が設けられたことや、需給状況に合わせてエネルギーを効率的に使用していくためのDR(デマンドレスポンス)の活用が盛り込まれたことも、注目すべき点です。
この3点の改正ポイントを詳しく見ていきます。

■ポイント(1)
「エネルギー」の定義を拡大
これまでの省エネ法では、化石燃料、化石燃料由来の熱・電気を「エネルギー」と定義し、再エネ由来の電気や熱といった非化石エネルギーは「エネルギー」の定義に該当していませんでした。
今回の改正では、この定義を拡大し非化石エネルギーが対象となりました。さらに、これまで対象外だった自然熱も整理され、太陽熱(給湯・暖房)、地熱(熱利用)、温泉熱、雪氷熱が対象となりました。これらのエネルギーの使用の合理化に向け、規範が見直されたのです。

改正のポイントはここ!!
▶「化石燃料」に該当しないものはすべて「非化石燃料」と定義。非化石燃料ならびに、化石燃料以外を熱源とする熱や電気が「非化石エネルギー」となる。
▶水素・アンモニア、合成燃料についても「非化石燃料」に位置付け。
2022年度第1回 総合資源エネルギー調査会資料および、経済産業省 ニュースリリ ース(2023.03.01)より抜粋

■ポイント(2)
非化石エネルギーへの転換
化石エネルギーから非化石エネルギーへの転換を推進するため、特定事業者に対して、2030年度を目標年度とする非化石エネルギー利用割合の向上に向けた計画の作成や、利用状況の報告を求めています。なかでも主要5業種(鉄鋼業、化学工業、セメント製造業、製紙業、自動車製造業)については、国が具体的な目標の目安を示します。

改正のポイントはここ!!
▶対象となる事業者は、国が提示する非化石エネルギーへの転換に係る「中期計画書作成指針」および「判断基準」に従って、2024年度より毎年、「非化石エネルギーの使用割合の向上に関する中長期計画書」・「定期報告書」を作成し、主務大臣に提出する。
▶提出された計画書および報告書については、判断基準に照らし、必要な場合には立ち入り検査や指導・助言が実施される。
2022年度第1回 総合資源エネルギー調査会資料および、経済産業省 ニュースリリ ース(2023.03.01)より抜粋

■ポイント(3)
上げ・下げDR活用による電気需要最適化
再エネの発電量が増える(余剰電力発生の)時間帯に需要をシフトし(上げのDR)、需給逼迫時に需要を抑制する(下げのDR)など、電気の需給状況に応じて需要を最適化する枠組みが構築されます。

改正のポイントはここ!!
▶「電気需要平準化」から「電気需要最適化」への見直し。
▶電気の需給状況に応じ一次エネルギー換算係数(1kWhの電気を使用した際のエネルギー使用量)を変動させることで、省エネ法上のエネルギー使用量を削減する。
▶電気事業者に対し、電気需要最適化に資する電気料金の整備など、計画の作成を求める。
2022年度第1回 総合資源エネルギー調査会資料および、経済産業省 ニュースリリ ース(2023.03.01)より抜粋

以上が今回の改正のポイントです。昨年から続く電気料金の高騰や、今冬に実施された政府からの節電要請など、省エネの推進はわたしたちの生活に直結する課題です。
本法律で計画の策定や報告が求められる基準にあてはまらない企業も、非化石エネルギーへの転換という国家的な施策に向けて取り組めることがあるのではないでしょうか。
「省エネ」の枠を超え、安定的なエネルギー供給の実現に向けて改正された省エネ法。その概要を理解することで、今後の課題も見えてくるかもしれません。

当社のお客さまが取り組むDR(デマンドレスポンス)事例を紹介します。

【参考資料】
経済産業省「エネルギーの使用の合理化等に関する法律(省エネ法)の改正について」

2022年度第1回 総合資源エネルギー調査会 省エネルギー・新エネルギー分科会 省エネルギー小委員会 工場等判断基準ワーキンググループ(2022.06.08)

経済産業省 ニュースリリース「安定的なエネルギー需給構造の確立を図るためのエネルギーの使用の合理化等に関する法律等の一部を改正する法律案の概要(2023.03.01)」

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