はい
咲き誇る桜がまぶしい春。
桜は命のよみがえりを象徴する樹木といわれます。今も地方の村に行くと、大きな桜の木の下に先祖代々のお墓が設けられているのを目にします。遠い祖先から現在の自分たちに至る命のつながりを、毎年力強く咲く美しい姿の中に見出していたのです。
昔から伝わるおとぎ話には正直者のお爺さんが枯れ木に灰(はい)をまくと、桜が満開になるというエピソードがあります。よく知られる「花咲か爺さん」。ここでは「灰」が桜の命をよみがえらせる。灰になって蘇生する不死鳥の伝説もそうですが、灰はしばしば命のリレーを表します。
そして日本語には、もう1つ重要な「はい」がある。返事です。この言葉にも生気を取り戻させてくれるエネルギーが含まれている気がします。その証拠に、呼びかけに対し、元気のいい「はい」という返事が返ってきたときには、何かしら心地よい活力をもらったような、軽やかな心もちになるはずです。呼びかけの後に続く話がどのような内容であろうとも、まずは「はい」を返す。それは、相手を尊重し、傾聴する姿勢を持って受け入れた証になります。迷わず口に出す「はい」は、相手に対し、気分よく爽やかな気持ちを与えてくれます。
私たち日本人には、命のよみがえりを象徴する桜の下で親しい者同士が集うお花見という文化がある。先祖からの生命のリレーに感謝し、その永続を祈る思いが、この習わしを支えています。それに加えて「はい」。日本の春は入学入社のシーズン。桜の花びらの舞う中、各地で素晴らしい「はい」がこだますることでしょう。春になれば、さまざまなエネルギーに触れられる国。この国に暮らせる幸せを感じずにはいられません。
エッセイの作者、いっさんは、テクノ家おばあちゃんの友人。実は「いっさんのちょっといい話」は、旅行好きないっさんが旅先からおばあちゃん宛に送った趣味の随筆の一部なんです。