【特別対談】電力分野の企業が担うもの何により社会に貢献するか
ウクライナ危機などに起因する燃料価格の高騰、導入拡大は進むが天候に左右される再生可能エネルギー(再エネ)、電力需給の逼迫……今、電力事業には乗り越えるべき多くの課題がある。2016年4月の電力小売り全面自由化以降に新規参入したいくつかの新電力が苦境に立たされているとの報道も目にする。そんな中、他の新電力とは異なる独自姿勢で着実な歩みを続ける日本テクノの馬本英一社長がその経営思想を有識者に示し所感を聞いた。対したのは、電力業界に造詣が深く、多数の政府有識者会議で委員を務める国際環境経済研究所理事・U3イノベーションズ合同会社代表の竹内純子さんだ。
どこに向かうのかきちんとしたビジョンがあるから、濡れ手で粟はつかまない
馬本 1995年設立の当社の起点は電気設備の保安点検業務です。技術者ネットワークとの提携や監視装置の活用といったビジネスモデルを開発し新しい保安サービスを始めました。新電力という言葉もない時代。そこから中心層である中小企業のお客様に寄り添い、得意とする電気の分野でメリットを提供できるよう業容を少しずつ広げ、現在、当初からの保安点検業務と省エネコンサルティング、それに電力小売りの3つの柱で事業を展開しています。自由化以降に異業種から電気事業に参入された新電力さんとは少し立ち位置が違います。
竹内 厳しい状況にある新電力が多い中、歴史が支える強さを感じますね。自由化でできた新市場に大きな期待を持って参入された事業者さんも多かったかもしれませんが、電気は生活を支える商材だから薄利多売が基本で、そこに付加価値をつけ競り勝って生き残るのは本当に難しい。「原資なき価格競争」に陥ってしまったのは、制度設計側の問題もありますが、エネルギー事業に求められる覚悟を十分お持ちではなかった参入者も少なからずいらっしゃったのだろうと思います。
馬本 安全・安心を与える保安の仕事を長年続けているだけに、電力小売りの分野でも大前提にしたのは安定供給でした。そのためJEPX(日本卸電力取引所)からの調達だけに頼ることなく、自前の供給力を持つべきだと考えた。そこで自社発電所の建設を進め、現在ガスエンジンのLNG火力発電所を3カ所稼働させています。ほかにも発電施設を持つ企業との相対契約も多く進めています。
竹内 太陽光発電は?
馬本 1カ所だけあります。太陽光はFIT(再エネ固定価格買取制度)の利益保証があり、複数持てば確実に収益は得られたでしょう。でも利益保証の原資は一般の電気の需要家。お客様に寄り添う姿勢を示す当社がそのレールに乗るのはふさわしくない。その1カ所は主に保守点検業務の研修を行うためです。
竹内 どこに向かうのかきちんとしたビジョンがあるから、濡れ手で粟はつかまない、そんな思想でしょうか。私の周囲には同様の考え方をされる人たちが多いのですが、エネルギー事業に対する矜持といったものを感じますよね。ただ、収益の上がるところに目を光らせ見つけたら逃さず儲けを出せと株主に求められたら応えていく必要もあるわけです。金融の在り方が変わりつつあるとはいってもそこまで浸透していない中で、揺るがずにこれまでやってこられたのは珍しいですね。
お客様が何に困り、何がうれしいのかを受け止め、提供可能なメニューを考える
馬本 電力小売りは3%の固定割引価格から始め、市場価格に連動する料金メニューを2016年から加えました。
竹内 その頃は市場価格が安かったから提供される側はかなりメリットがあったでしょうね。
馬本 そうですね。でもその後2021年1月の高騰などもあり、リスクの可能性は伝えていたとはいえ、このままではお客様に迷惑がかかると思い対応メニューを考えました。高値が予想されるときは事前に、市場連動の変動価格から固定価格に切り替えられるクロススイッチというメニューです。さらに、忙しい中小企業の負担軽減を考えネットから申請する切り替え手続きの手間を省けるよう年間を通して変動と固定の期間が決められるプレフィックスというメニューも追加したんです。夏と冬の高値が予想される時期は固定に、安くなる春と秋の期間は市場連動の価格にできる。
竹内 でも昨年の秋は例年通りにならずに高騰していますよね。
馬本 はい。そこから想定外の事態は起きるのだと学び、すぐ次の対応メニューを開発しました。連動価格の設定時期でも一定以上値上がりしたら自動的に固定価格が適用されるプレミアム・プレフィックスです。こうした柔軟な対応ができるのはお客様の電気設備についている監視装置で、電気の使用状況を把握できているから。製造業では負荷率(ピーク電力に対する使用割合)が16%未満のお客様を対象に、市場価格高騰下でも新規受付をしています。実はその対象層であれば、上げ下げデマンドレスポンス(DR)の活用で値上がり幅をほんのわずかに抑えられるのですが、より安心な道を選びたいと考えるお客様のことも考え、当社がリスクをとるようにしました。
竹内 先ほどの「歴史が支える強さ」の通りですね。お客様が何に困り、何をうれしく感じるか、それを正面から受け止め、そのニーズに対して、自分たちは何ができるのか、どういうメニューならば出せるのかを徹底して考え抜く。そこにはもちろん、これまで蓄積したデータに基づいて適正な利益が生まれるように対象を限定するといったビジネスとしての手堅さもある。自分たちの役割というか、何によって貢献するのかが見えているということでしょうか。
馬本 今後はもっと市場連動のお客様を増やしていく計画です。壁かけ時計に市場価格の情報を表示するSMART CLOCKや値動きをわかりやすく示したサイトの活用を働きかけて、その情報をもとにDRに取り組めば、価格高騰への対応はもちろん、さまざまな波及効果を、お客様自身が得られるからです。作業工程の見直しによる生産性向上、残業時間の低減、社員の士気の高まり……。特に負荷率の低いお客様はそうした効果が出やすい。これはお客様を守り続けたいと思いつつ仕事をしてきた末の提案のような気がします。自分は中小企業の応援団だと思っています。
電気事業を担う技術は叩いて叩いて円熟しきったものであるべき
馬本 お客様の省エネ活動ではサービス導入後1年は電気料金低減で大きなメリットが出る。でも2年目以降は伸び悩む例が多い。そこで省エネ活動の助言をするアシストサービスを提供しています。そこではGIFTキャディというパートの専門担当者を登用しています。
竹内 事業全体が丁寧な手仕事のようですね。古典芸能などで円熟した深い技を「枯れた芸」といいますが、電気事業を支えるのはそれと同じ「枯れた技術」でなければいけないと思っています。最先端の技術ではなく、市場で叩いて叩いて円熟しきった技術でなければ社会インフラの担い手にはなれないと思っていますが、多くはそれを意識せずに駆け足で新しい代替システムを組み上げようとする。特に過疎地のような地方の電力インフラの老朽化問題に対するときなどはその傾向が顕著です。
馬本 一朝一夕に事は成しえないんですね。竹内さんはエネルギーの地産地消関連の事業に関わられているとか。
竹内 八ケ岳の麓で完全オフグリッド生活の実証を始めています。電気は太陽光と蓄電池。水も循環させているので、水道管も排水管もつながっていません。将来的には廃棄物も循環させ、既存のインフラの制約から解き放たれた、生活の選択肢を提供したいと思っています。実証後この仕組みを、豪華なアウトドア体験を提供するグランピングの事業者にパッケージで販売していき10年ほどかけてコストや利便性を叩き上げて「枯れ」の域に近づけ、最終的には衰退する地方インフラの代替システムに育てる考えです。
馬本 それは楽しみですね。お手伝いできることがあれば、ぜひ。
竹内 電気事業は10万回に1度のミスも許されない商材を扱うだけに新規事業者が入りにくい世界です。しかし少子高齢化の進むこれからの日本では新・旧のプレイヤーが互いにリスペクトし合い共通のビジョンを持って進まなければ立ち行かない。御社はその橋渡し役に最適な存在だと感じました。一層のご活躍を期待しています。
馬本 光栄なお言葉、恐縮です。本日はどうもありがとうございました。
竹内 ありがとうございました。
電気に関する総合サービスを提供する日本テクノの広報室です。エコな情報発信中。