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特集/生物多様性とは――生物多様性損失の原因と私たちにできること

新年度に入り、全国各地で桜の花が咲き始めました。新緑の季節もすぐそこ。5月4日(祝)の「みどりの日」をご存知の方は多いと思いますが、このみどりの日をはさんだ4月15日から5月14日の1ヵ月は環境省の推進する「みどりの月間」です。自然環境への理解や関心を高めるイベントが数多く企画されています。
今回のコラムでは、身近な自然環境を考えるうえで参考となる「生物多様性」について紹介します。



【目次】
生物多様性とは
進む生物多様性の損失
生物多様性から受ける恵み、生態系サービス
生物多様性の損失の大きな原因は人間活動によるもの
生物多様性を守るためには

生物多様性とは

生物多様性とは、地球上に生息するすべての生きものと、それら一つひとつのつながりのことをいいます。地球には40億年という長い歴史のなかで、それぞれの環境に適応しながら、約3,000万種もの生物が生まれてきました。たとえば目に見えないほど小さな細菌や、草木などの植物、昆虫、犬や猫などの身近な動物、ライオンやゾウなどの野生動物、もちろん私たち人間も含まれます。
生物多様性はそうしたさまざまな種類の生物が「生きている」ということだけでなく、すべての生物が個性をもって存在し、そのすべてが「直接的・間接的に支えあって生きている」状況を指すのです。
また一般的に、生物多様性には「生態系の多様性」「種の多様性」「遺伝子の多様性」という3つのレベルが定義されています。

 【生物多様性の3つのレベル】
生態系の多様性
地球上には森林、里地里山、河川、湿原、干潟、サンゴ礁などさまざまなタイプの自然環境があり、それぞれに適した生物が生態系を築いている。
種の多様性
動植物から細菌などの微生物まで、さまざまな種の生物が存在している。
遺伝子の多様性
同じ種であっても異なる遺伝子を持つことにより、形や模様、生態などに多様な個性が生まれる。

進む生物多様性の損失

近年、地球温暖化による気候変動が世界的な課題となるなかで、生物多様性の損失も進行しています。
これはどういうことでしょうか。たとえば生態系のひとつである「森」。森で育った木が花や実をつけ、やがて枯れて地面に落ちてきます。落ちたものはリスやタヌキなど小動物のエサに。そして、その動物の糞がふたたび木の栄養になって、森という生態系に戻ります。1本1本の木は自分の力だけで成長するのではなく、他の生物と互いに支え合って生きています。そうしたなかで、もしも木々がなくなってしまったら、木々によって守られていた他の動植物も生きていけなくなってしまいます。このように相互のつながりが大きく損なわれ、生態系が崩れてしまう、もしくはその場からなくなってしまうことを生物多様性の損失といいます。

WWFジャパンの資料によると、1970年からの50年間で脊椎動物の個体群が世界全体で約68%も減少しているそうです。また、IUCN(国際自然保護連合)のまとめた絶滅のおそれのある世界の野生生物「レッドリスト」で、絶滅の恐れが高いとされた野生生物の数は4万種を超えています(2022年時点)。多くの生物が絶滅の危機に瀕し、生物多様性が失われつつあるのです。

生物多様性から受ける恵み、生態系サービス

私たち人間の生活もさまざまな生物多様性の恵みによって成り立っています。毎日の食事や医療、文化、産業など生物多様性を基盤とする生態系から得られる恵みを「生態系サービス」と呼びます。
生態系サービスは下記の「供給サービス」「調整サービス」「文化的サービス」「基盤サービス」の4つに分類されます(国連の評価基準による)。

【1】供給サービス
食料や水、燃料、医薬品など、暮らし全般を支えるもの。人間の生活に重要な資源を供給する。
【2】調整サービス
環境の制御を図り、生活の安全を支えるもの。森林があることによって気候の影響が緩和されたり、洪水が起こりにくくなったり、水が浄化されたりする。これらを人工的に実施しようとすると、膨大なコストがかかる。
【3】文化的サービス
人間が自然に触れることで得られる文化やレクリエーション。多くの地域固有の文化や宗教(祭や郷土料理)はその地域に固有の生態系によるもので、生物多様性がこうした文化を支えている。
【4】基盤サービス
人間の命を支えるもの。例えば、光合成による酸素の生成、昆虫や微生物による土壌形成、水の循環など、上記3つのサービスの基盤となるもの。

生物多様性の損失の大きな原因は人間活動によるもの

人間の生活にさまざまな恩恵をもたらす生物多様性。一方で、残念ながら生物多様性の損失には、私たち人間の行動が大きな影響を及ぼしているといわれています。下記の4つはその代表的な事例です。

■開発・乱獲
開発や乱獲などにより、種の数が減ってしまうこと。日本国内では、1970年代から2000年代にかけて都市近郊の農地や森林が市街地へと開発されたことによる損失が大きい。絶滅危惧種の増大はこれに起因するものが多い。
■生息環境の喪失
開発や汚染などにより生き物の暮らす環境が失われること。里山では手入れが不足して自然の質が低下することもある。またチョウやホタルなどの昆虫類、ノウサギなどの哺乳類といった身近な生物の減少に影響を与える。
■外来生物
人間がこれまでの生息域外から持ち込んだ外来種が野生化し、もともとその場所にいた野生生物を食べてしまったり、すみかや食べ物を奪ったりして生態系を変えてしまうこと。輸入品に混入し海外からやってくるなど、非意図的な侵入も見られる。
■気候変動
地球温暖化など地球環境の変化により、食物が採れなくなったり、数を減らしたりする動植物が出てくる。一方で、生息域を広げ、数を増やすものも現れ、これら新たに優勢になった動植物の影響で、もともと生息していた種が脅かされることもある。

生物多様性を守るためには

生物多様性は、自分たちの住んでいる地域だけを考えればいいものでなく、世界全体で取り組んでいかなければ守れないものです。そこで世界全体でこの問題に取り組むために制定されたのが1992年に採択された「生物多様性条約」です。

【生物多様性条約の3つの目的】
1.生物の多様性の保全
2.生物の多様性の持続可能な利用
3.遺伝資源の利用から生じる利益の公正かつ衡平な配分

それまでにも野生生物の保護を目的とする国際的な取り組みとして、絶滅のおそれのある野生動植物の国際取引に関する条約として「ワシントン条約」が、また水鳥を中心とする生息地として重要な湿地に関する条約として「ラムサール条約」などがありました。生物多様性条約はこれらを補完し、生物の多様性を包括的に保全し、生物資源の持続可能な利用を行うための枠組みとして国連などで議論されてきました。

生物多様性条約には、生物多様性に関する情報交換や調査研究を各国が協力して行うことのほかにも、資金と技術の両面から開発途上国を支援する仕組みづくりに力が注がれています。2023年4月現在で、194ヵ国と欧州連合(EU)およびパレスチナが締結。米国は未締結となっています。

1994年の第1回締約国会議(COP1)から始まり、2010年には、愛知県名古屋市でCOP10が開催され、2050年を最終目標(長期目標)ゴール、2020年を短期目標ゴールとする「愛知目標」(20の個別目標)が掲げられました。
そしてこれに次ぐ、ポスト愛知目標が「昆明・モントリオール生物多様性枠組」。2022年のCOP15において新たな世界目標として採択されたものです。

【昆明・モントリオール生物多様性枠組】
愛知目標より引き継いだ「2050年、自然と共生する世界」というビジョンと、愛知目標の課題・教訓を踏まえた内容で構成されている。
新枠組は、2050年の最終ゴールに向け、2030年ミッションとして「自然を回復軌道に乗せるために生物多様性の損失を止め反転させるための緊急の行動をとる」を定め、これの具体的なアクションとして23の短期目標が掲げられた。
また、新枠組の進捗をモニタリング・評価する 「レビューメカニズム」も同時に採択され、これまでの目標よりもさらに実効性を高める仕組みとなっている。

           【出典】環境省「みんなで学ぶ、みんなで守る 生物多様性」

私たち人間も生物多様性の大事な構成要素。「生物多様性を守る」という意識はもちろん必要ですが、「共生」の気持ちも大切ですね。2050年のゴールを見据え、世界の動きにも注目しつつ、私たちにできることを考えていきましょう。

【参考資料】
環境省「みんなで学ぶ、みんなで守る 生物多様性」
外務省「生物多様性条約」

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