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特集/原子力発電とは――今さら聞けないその仕組みや歴史を紹介

2050年カーボンニュートラルへの動きのなか、また電力需要の増大などを受けて、原子力発電所のあり方が見直されています。国内の原子力発電利用の流れを振り返ってみると、1970年代の急拡大後、2011年の東日本大震災にともなう福島第一原発の事故により、一度はその利用がゼロになりました。そして現在、安全性を最優先にした政策が進むなかで2024年度中の閣議決定が予定されている第7次エネルギー基本計画では、その素案に2040年度の発電量に占める原子力発電の割合を2割程度に維持し、最大限活用していくことが盛り込まれています。
今回はあらためて、原子力発電とはどのようなものなのか、今さら聞けないその仕組みや歴史、現在の状況などを見ていきます。



原子力発電の仕組み

原子力発電の基本的な仕組みは、火力発電と同じです。火力発電の場合は、石油や天然ガスなどの化石燃料をボイラーで燃やして水を沸騰させ、高温高圧となった水蒸気でタービンなどを回して発電します。
原子力発電では、タービンを回す熱を得るためにウラン燃料を使用。原子炉でウラン燃料を核分裂させるなどして起こした熱を利用して発電します。
なおウランは核分裂を起こすものと、起こさないものがあり、原子力発電に使われているものは「ウラン235」と呼ばれる、核分裂を起こすもの。天然ウランのなかにわずか0.7%ほどしか含まれていません。そのため発電に利用する場合は、ウラン235の割合を約3%まで濃縮し、焼き固めたペレットが燃料となります。

現在、日本国内で発電に使用されている原子炉は「軽水炉」と呼ばれるもので、世界でもこれが主流です。水蒸気を発生させる仕組みの違いによって沸騰水型炉(BWR)と加圧水型炉(PWR)の2種類に分けられます。

沸騰水型炉(BWR)
軽水炉のなかで蒸気を発生させて、その蒸気を直接タービンに送って回す方法。

加圧水型炉(PWR)
軽水炉でつくられた高温高圧の水を蒸気発生器に送って、そこで別の水を蒸気に変えてタービンを回す方法。
(図)BWRとPWR

引用:エネルギー白書2024(第2部エネルギー動向 19ページ)


原子力発電のメリットと課題

原子力発電のメリットのひとつは、資源が安定的に確保できることです。発電の燃料となるウランはオーストラリア、カザフスタン、カナダ、南アフリカなど世界各国に多く埋蔵されています。火力発電の燃料となる石油や天然ガスの埋蔵地が中東など特定地域に偏り気味なのに比べ、政情の安定した国々に幅広く分布しているため、安定的な確保が可能です。
また原子力発電は、使用するウラン燃料の量に対して、発電量が非常に大きいこともメリットです。たとえば100万kWの電力を生み出す原子力発電所を1年間運転する場合、21トンのウラン燃料が必要です。一方で、同じ100万kWの出力の火力発電を同期間運転すると、天然ガスで95万トン、石油で155万トン、石炭では235万トンが必要。稼働率に大きな違いがあるのです。
さらに原子力発電は、同じ燃料で1年以上にわたり発電を継続させることができます。長期間にわたり安定して一定量の電力を供給できることから、国内ではベースロード電源に位置付けられてきました。ウランは発電時にCO2を排出しないことから環境に優しい発電方法ともいわれます。


(図)100万kWの発電設備を1年間運転するために必要な燃料

出典:資源エネルギー庁 エネこれ「エネルギー危機の時代、原子力発電をどうする?」


そうしたメリットがある一方で、当然、課題・デメリットもあります。
原子力発電は燃料であるウランが核分裂を起こす際、放射性物質を出します。放射性物質は人体への健康被害や自然環境にさまざまな影響をもたらすといわれています。
しかし一方で放射性物質から発せられる「放射線」は、もともと自然界に存在するものです。人間は食物や空気中など、日常生活のさまざまな場面で微量な放射線を受けながら生活をしています。原子力発電所においても、通常運転時に出る放射線は人体への影響を心配するレベルではありません。とはいえ放射性物質を扱う発電所にとっては、その管理や災害時の対処には、大きなリスクがあります。
また燃料であるウランはその多くがリサイクルされ、ふたたび燃料などとして利用されていますが、一部は放射性廃棄物となります。その適切な処理・処分には長い期間と厳格な安全管理が必要です。


原子力発電の主なメリットとデメリット

メリットメリット
・資源の安定的な確保が可能・放射性物質の扱い
・高い発電効率・災害時の対処
・発電時のCO2排出量ゼロ・放射性廃棄物の処理・処分

日本における原子力発電の歴史

エネルギー資源に乏しい日本のエネルギー政策を考えるうえでは、「S+3E」が重要といわれています。そうしたなかで、上記で紹介した通り、安定的に燃料を確保でき、発電効率に優れた原子力の利用は欠かせないものでした。

1955年の「原子力基本法成立」
日本での原子力発電利用の歴史を振り返ると、そのスタートは1955年。原子力の利用を推進するための「原子力基本法」が成立したことです。基本法では、原子力の研究や開発は平和利用を目的としたものに限ることとし、安全の確保が大前提に掲げられました。基本法成立後、原子力発電の先進国であるアメリカやイギリスの協力を得て開発を進めた日本。1966年に国内初となる商業用原子力発電所が運転を開始しました。

そうしたなかで、原子力発電の利用が積極的に進められたのは1970年代に入ってから。1973年の「第一次オイルショック」、続く1978年の「第二次オイルショック」。これらが契機となり、日本だけでなく世界各国で石油資源への依存リスクが叫ばれ、原子力の利用が急速に拡大していきました。


(図)日本の原子力利用状況の推移

引用:経済産業省 エネこれ「日本における原子力の平和利用のこれまでとこれから」


クリーンエネルギーとしての利用
世界各国で順調な導入が進められた原子力発電ですが、事故やトラブルも相次ぎました。国内でも高速増殖炉「もんじゅ」でのナトリウム漏洩事故、茨城県東海村にあるウラン加工工場での臨界事故といった事故が発生し、利用に関する安全性があらためて見つめ直される状況となりました。

一方で、1997年の「京都議定書」採択など、地球温暖化に対する問題意識が広がります。原発のCO2を排出しないクリーンエネルギーとしての側面に注目が集まります。日本でも2010年の「第三次エネルギー基本計画」では、エネルギーの需給構造を低炭素型に変革するため、2030年の電源構成において「原子力発電比率50%超」をめざすことが明記されました。

エネルギー政策の再構築
2011年の東日本大震災にともなう福島第一原子力発電所の事故により、原子力発電を含めた日本のエネルギー政策を根本から見直す事態となりました。日本の発電電力量に占める原子力発電のシェアは、震災前の2010年度には25.1%を占めていましたが、2011年度には9.3%、2012年度には1.5%、2013年度には0.9%となり、2014年度には原子力発電所の稼働基数がゼロになったことから0%となりました。

2014年の「第4次エネルギー基本計画」においても、エネルギー政策の基本的視点(S+3E)への立ち返りと、原子力発電のゼロベースの見直しが進められました。

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原子力発電の現在の稼働状況

現在、2025年カーボンニュートラルを見据え、また電力需要の増大、エネルギー価格の高騰などの状況を受けて、原子力発電はふたたび注目を集めています。冒頭でも紹介したように第7次エネルギー基本計画の素案には「原子力の最大限活用」が盛り込まれています。

2014年時点で一度は稼働ゼロとなった国内の原子力発電ですが、世界的に見ても日本はアメリカ、フランス、中国に次ぐ、世界で4番目の原子力発電設備容量を有しています(2023年1月時点)。
政府では、福島第一原発の事故以降、国民の安全を最優先にしたうえで原子力の安全管理の立て直しを図るため、2012年に独立性の高い行政機関として原子力規制委員会を設置。2013年には同委員会によりIAEA(国際原子力機関)や諸外国の規制基準を踏まえた、原子力の新規制基準が策定されました。

2024年10月時点で、再稼働している原子炉は12基あり、原子力規制委員会から設置変更の許可を得たうえで、地元自治体が再稼働に理解を表明した原子炉も5基あります。
原子力発電所の再稼働については、同委員会が科学的・技術的に審査し、新規制基準に適合すると認めた原子力発電所のみで、安全性を最優先にした取り組みが進められています。


(図)世界の原子力発電設備容量(2023年1月現在)

引用:エネルギー白書2024(第2部エネルギー動向 19ページ)


(図)原子力発電所の現状

引用:資源エネルギー庁「原子力に関する動向と課題・論点」令和6年10月16日


原子力発電の今後

原子力発電については、再稼働を着実に実行すると同時に、各事業者による次世代革新炉と呼ばれる新しい原子炉の開発が加速しています。現行のメカニズムで安全性を高めた「革新軽水炉」、小型の軽水炉である「小型モジュール炉」、核分裂ではなく核融合反応から熱を得る「核融合炉」など。政府の支援のもと、各事業者が安全性の確保を大前提としたうえで、新たな安全メカニズムを組み込んだ原子炉の開発・建設を進めています。
また同時に、国による原子力人材の確保・育成、国際的な共通課題への連携強化など、今後の原子力政策への方向性や指針づくりも進められています。時代の変化に応じた原子力利用の行方、今後も注目していきましょう。

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