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特集/第7次エネルギー基本計画――第7次改定の論点とこれまでの変遷

5月に入り日本のエネルギー政策の指針となるエネルギー基本計画の第7次改定に向けた議論が始まりました。2024年度中の閣議決定を目めざす第7次計画。改定を前に、あらためてエネルギー基本計画の概要とこれまでの変遷、また第7次計画策定の論点をまとめます。



【目次】
エネルギー基本計画とは
エネルギー基本計画の変遷
第7次計画の論点とは

エネルギー基本計画とは

エネルギー基本計画は、日本のエネルギー政策の方向性を示すものであり、エネルギーに関するさまざまな政策の土台となっています。2002年に施行されたエネルギー政策基本法に基づいて策定され、翌2003年に最初の計画(第1次計画)が閣議決定されました。以後、3~4年ごとに改定が行われ、今年(2024年)の改定がなされれば第7次計画となります。

エネルギー資源に乏しい日本のエネルギー政策を考えるうえでは、「S+3E」が重要といわれています。

 S:安全性(Safety)
 E:エネルギーの安定供給(Energy Security)
   経済効率性の向上(Economic Efficiency)
   環境への適合(Environment)


S+3Eのすべての条件を満たすエネルギーは今のところ存在しません。S(安全性)を大前提としたうえで、エネルギーを安定的に供給できる環境を整え、経済効率や環境適応を達成するためには、エネルギー源ごとの強みが最大限に活かされ、弱点が補完されるよう、多様なエネルギーの供給構造を実現する必要があります。
エネルギー基本計画もこの点をベースに策定されています。そのうえで、これまでの改定で国内のエネルギー需給を取り巻くさまざまな環境に応じた内容が検討されてきたのです。

エネルギー基本計画の変遷

前回の第6次計画は、上記にある「S+3E」を重視したうえで、再生可能エネルギー(再エネ)の主力電源化や、安全性確保のための原子力依存からの脱却が重視されました。そうした条件のなかで日本の掲げる「2050年カーボンニュートラル」を前提とする電源構成目標が定められました。ここであらためて第1次からの変遷を見てみましょう。

◇各改定の論点◇
第1次計画(2003年10月)
・2002年制定の「エネルギー政策基本法」の基本方針を具体化
・基本方針:「安定供給の確保」「環境への適応」「市場原理の活用」
・京都議定書の目標に基づく環境適応を策定

第2次計画(2007年3月)
・原子力発電の積極的な推進と、新エネルギーの着実な導入拡大
・化石燃料の安定供給に向けた資源外交の積極的展開と、エネルギー企業の育成
・省エネルギー政策の一層の充実・強化
・エネルギーや環境問題の解決に向けた国内技術力の一層の強化と戦略的な活用

第3次計画(2010年6月)
・エネルギー安全保障の総合的な確保
・エネルギーの需給構造を低炭素型に変革
・環境・エネルギー大国をめざした政策資源の集中投入
・2030年までの今後「20 年程度」を視野に入れた具体的施策の検討

第4次計画(2014年4月)
・東日本大震災と東京電力福島第一原子力発電所事故などを受け、ゼロベースの見直し
・エネルギー政策の基本的視点(S+3E)への立ち返り
・多層化・多様化した柔軟なエネルギー需給構造の構築

第5次計画(2018年7月)
・2030年エネルギーミックスの実現と2050年を見据えたシナリオの設計
・エネルギー政策の基本的視点(S+3E)への立ち返り
・再エネの主力電源化と、原発依存度の低減

第6次計画(2021年10月)
・東日本大震災から10年を経て、安全性の最優先が大前提(S+3E)
・可能な限りの原発依存度の低減
・2050年カーボンニュートラルを見据え、2030年の温室効果ガス排出削減目標(2013年から46%削減)の実現に向けたエネルギー政策
・気候変動対策と、日本のエネルギー需給構造が抱える課題の克服

第7次計画(2024年度中策定予定)

|振り返り|
第7次計画を策定するうえでも大前提となる「S+3E」について、ここであらためて現況とともに見てみましょう。

安全性(Safety)
安全性は、日本のエネルギー政策を考える時の大前提とされているものです。
東日本大震災での東京電力福島第一原子力発電所で起こった原子力発電事故の経験や、そこへの反省・教訓は、2011年以降、日本のエネルギー政策の原点となりました。

安定供給(Energy Security)
現在、ロシアによるウクライナ侵略により、あらためてエネルギー資源の輸入にともなうリスクが注目されています。輸入リスクにそなえるためには、一部の国や地域からの輸入に頼るのではなく、さまざまな国から輸入することが望まれます。
また、自給率の向上や、自然災害に強いエネルギーシステムの構築も必要です。

経済効率性の向上(Economic Efficiency)
新型コロナウイルス感染症の流行からの経済回復によるエネルギー需要の急拡大、世界情勢の影響による燃料需給のひっ迫などを背景にガソリン代や電気料金が上がっています。エネルギー価格は、すべての国民の生活や仕事に広く影響を及ぼす事案のため、エネルギー政策を考えるうえでは、経済効率性を考えることが大切です。

環境への適合(Environment)
「カーボンニュートラル」「脱炭素」といった気候変動対策としてのCO2削減が注目され、エネルギー分野においても再エネをはじめとするCO2を排出しないクリーンエネルギーの拡大が求められています。

第7次計画の論点とは

2024年度中の閣議決定をめざす第7次計画策定に向けて、5月15日に経済産業省の有識者会議による議論が始まりました。計画の柱となるのは、2040年度の電源構成の目標決め。温室効果ガス削減目標と電力の安定供給の両立が課題となるなかで、AI(人工知能)の普及やデータセンターの市場規模拡大により電力需要増も見込まれています。

また昨年来より政府の進める「GX2040ビジョン」では脱炭素対策や経済成長策が検討されており、エネルギー基本計画もこれと連動した議論が進められる予定です。第6次計画では「安全を最優先し、可能な限りの原発依存度の低減」が盛り込まれていましたが、「GX2040ビジョン」では「原発の最大限の活用」が掲げられており、この位置づけも大きな議題となります。

ちなみに第6次計画では再エネの目標比率が36~38%、原子力が20~22%。そのほか石油火力などが2%程度。水素・アンモニアによる発電が1%程度となっていました。これに対し、22年度の実績では発電量全体の70%超が石炭や天然ガスなどの火力発電で賄われています。再エネ・原子力の扱いも含め、どのような閣議決定がなされるのか、注目していきましょう。

【参考資料】
経済産業省「エネルギー基本計画について」

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