Vol.5 「那須平成の森」で没入感に浸る|日光国立公園
日光国立公園は福島、栃木、群馬の3県にまたがる山岳地域を中心に広がる。大半が東日本火山帯に属しており、湖沼や滝、渓谷など、火山活動に起因する雄大な景色が楽しめる。
北関東最高峰の日光白根山や信仰対象の男体山、火山活動の見られる茶臼岳など名峰のほか、戦場ヶ原、霜降高原、中禅寺湖、華厳滝といった名所がある。
日光といえば日光東照宮をはじめ神社仏閣群が想起されるが、歴史文化の遺産だけでなくダイナミックな自然にも触れられる。今回はその魅力を堪能できる公園北部の那須エリアについて、那須管理官事務所の上席国立公園管理官である瀧口さやかさんに取材した。
那須エリアは日光や塩原とは山岳を隔てた飛び地。1934年に日光・尾瀬エリアが国立公園に指定され、16年後に那須甲子・塩原・鬼怒川地域が加わった。2007年に尾瀬が独立した国立公園として分離し今に至る。
特徴は何といっても首都圏からのアクセスのよさ。「関東一円であれば比較的どこからも訪れやすく、公園域内には観光客を迎えるレジャー施設がたくさんあります」(瀧口さん)。
温泉地や別荘地も多く、来訪者にはそれぞれ多様な目的がある。そこで那須町全体で取り組んでいるのが「インタープリテーション全体計画」。この地の魅力を地域住民自らの言葉で発信するといった来訪者を迎えるためのコミュニケーション戦略だ。この策定には町、観光協会のほか、観光施設、宿泊施設などさまざまな関係者が参加した。那須が持つ魅力や資源を思いつく限り挙げたうえで、「火山」「水」「人」そして「御用邸」の4つのキーワードに集約し、環境保全や自然資源の適切な利活用といった活動を進め、来訪者の理解促進につなげている。
その中の「御用邸」は皇族の静養地である那須御用邸を指す。瀧口さんがこのエリアで外せない場所として教えてくれた「那須平成の森」は、今は環境省が管理しているが、かつて御用邸の一部だった。
静養地になったのは100年前の1926年。戦後、薪炭林としての利用が減るとほとんど人の立ち入りがなくなり以来手つかずの状態で自然が残されてきた。時を経て御用邸の一部である約560ヘクタールが宮内庁から環境省に移管され2011年に一般開放された。そこには天皇陛下(現在の上皇陛下)の「この豊かな自然に国民も触れてほしい」との意向があったという。

那須第一の滝といわれる「駒止の滝」。見学には、那須平成の森フィールドセンターから周回する1時間半のハイキングコースがお勧め。
(写真提供:環境省)
現在ここにはフィールドセンターが置かれ、自然と人とを橋渡すガイド役「インタープリター」が常駐している。来訪者にさまざまなプログラムを通じて、自然の知識をわかりやすく伝える。それはまさに森からのメッセージの「通訳」。インタープリターの1人、檜山隆太さんは「知識を〝伝える〞のではなく、一緒に体験し参加者自身が発見して考えることを通じて感動や納得とともに〝伝わる〞。そんなガイドを心がけています」と話してくれた。
那須は標高が高く、平地よりも気温が低い。登山客だけでなく、避暑やレジャー目的で夏場は特に混雑する。ツツジが咲き誇る初夏や、紅葉の美しい秋も同様に多くの観光客が訪れる。これらのスポットが混雑する時期も、広大な自然が広がる那須平成の森では自然の静けさを楽しむことができる。
瀧口さんは「平成の森の利用者からは期待していたより満足度が高いという声が多く聞かれます。自然好きのための場所と身構えず幅広い層の方に来てもらいたいですね。自然林の中を散策し得られる没入感は格別です」と呼びかける。
現地訪問レポート
今回の現地取材は那須平成の森でスノーシュー体験をして参りました。結論から申し上げます。めちゃくちゃ楽しかったです!!普段ウィンタースポーツになじみがないため、「スノーシューって……スキーウェア持ってったり、着替えたり、めんどくさそう……」と最初は腰が重たかったのが正直なところでした。何とか他に楽に那須の自然を体験できるスポットはないものかと探すなど、ムダな抵抗もしました。が、調べれば調べるほど、冬の那須に行くならスノーシューを体験しておくべきだなという意思が固くなり、腹を括った訳ですが。もう本当に、重たい腰をどっこいしょと那須まで運んでよかったです。大の大人が童心に帰り、仕事を忘れ、全力で雪の林道散歩を楽しんでしまいました。よい思い出になりました……。
さて、そんな那須平成の森へは車でのアクセスがおすすめです。路線バスが通っていないため、公共交通機関で行かれる場合はお気を付けください。私は那須塩原駅から路線バスで那須湯元温泉へ、そこからタクシーを利用しました。流しのタクシーが走っていることは稀なので、地元のタクシー会社へ問い合わせて予約しておくのが無難です。
那須湯元温泉に到着したときは、細雪が断続的に降ってはいるものの、積もっているほどではなく、この積雪量でスノーシューなんてできるのかしら。と不安に思う気持ちが。しかしそこからタクシーで走ること20分。到着した那須平成の森はちゃんと雪景色でした!それもそのはず、那須湯元温泉は標高600~800mにあり、那須平成の森(フィールドセンター)の標高は約1,000m!200~300m変われば、雪の降り方も変わってくるというものです。

ほっと胸をなでおろし、まずはフィールドセンターへ。ガイドウォークの申し込みと支払いを済ませたら更衣室でスキーウェアに着替えます。
※ちなみに、足元はスキー用のブーツである必要はありません。私はタウン用のスノーブーツで行きましたが、雪の中を1時間散策しても特に問題ありませんでした。服装についてはフィールドセンターの公式ホームページを参考にしてください。
ガイドウォークではフィールドセンターに勤務するインタープリターさんが案内してくださいます。今回私たちを案内してくれたのは、記事本文にも登場する檜山さん!「りーたって呼んでくださいね!」という明るい笑顔にこちらの気持ちもほぐれます。
出発前は、まずスノーシューの履き方から丁寧に教えていただきます。ブーツをスノーシューにベルトで固定するのですが、周りのフレームがぱたぱたと前後に動くのに驚きました。裏面にはクランポンと呼ばれる爪が少々。新雪の上でも沈まず、ある程度の斜度があっても滑りにくい構造になっているようです。装着したまま足を持ち上げてもそこまでの重量は感じませんでした。ほほう~、これがスノーシュー。
「かんじき」というと昔ながらの藁で編まれたものしか脳内に浮かばず、なんとなく「短いスキー板みたいなものかしら」と考えていたのですが、大ハズレでした。
履き方をマスターしたら、さっそく森の中へ!
足跡のない雪の上を歩くなんて、それだけでも市街地で暮らしているとなかなかできない体験。歩き始めから大興奮でした。しかし、踏み出すと、思っていたよりは沈む……。「けっこうズボって沈むんですね~」とりーたさんに伝えると、ささっとスノーシューを外してブーツだけて踏み込んで見せてくれました。結果、スノーシューを履いているといないとでは雲泥の差!スノーシューを履いていると「ズボっ」くらいの沈み方ですが、履いていないと「ズボオオ」くらい沈みます。ここまで差が出るものかと感動!私もやってみたかったですが、りーたさんのようにささっと着脱できる自信がなかったのでやめておきました。

さて、ガイドウォークでは森の中を散策しながら、インタープリターさんが立ち止まりつつ自然の魅力を教えてくれます。そのどれもが、ただ知識を話すだけでなく、見て触って考える実体験を交えながらなので、より記憶に残りやすく、何より興味深く学ぶことができます。

例えば、森の中にはまっすぐ生えている木も多いですが、根本から二股になっているものも。「どうしてこういう違いがあると思いますか?」と問いかけるりーたさん。私は電気の会社で働いている人間なので、「自然の中でこうなる現象といえば……落雷ですね!?」と自信満々に回答しましたが、りーたさんはやさしく笑って「実はですね~」と答えを教えてくれました。
この辺りが御用邸の敷地となってからもしばらくは住民が木材調達に来ていたことは記事内でもご紹介しました。80年ほど前までは出入りがあったそうです。木を切る際は根本を残すので、時間が経つと新たに脇芽が生えてきます。それが成長し、80年もの時間が流れると、二股の木になる……というのが正解でした。なるほど、そんなに落雷があってはたまったものではありませんものね。土地の歴史を交えながら、現物を目の前にして解説してくださるので、話を聞くだけより理解が一層深まります!
そのほか、木の幹についた鹿の角の跡や、獣道、街中で見かけるどんくりとの大きさの違いなど、道中さまざまなお話を伺いました。「そんなに色々どこから出てくるの???」と本気で不思議になるくらい、四次元ポケットのようなカバンからインタープリテーションのための道具が出てくる出てくる(笑)。



今回の1時間ほどのコースでは解説や観察を交えながら、フィールドセンターから400mほどのところにある崖の上まで行ってきました。この崖には、初夏には「シロヤシオ」が咲き乱れると聞き、季節を変えて再訪したくなりました。なお、シロヤシオは愛子さまのお印にもなっている花だそう。こんなところからも、平成の森と皇室のつながりが伺えます。
ちなみにフィールドセンター周辺は風も穏やかで少し日も差していましたが、この崖のところまで来ると気温も寒く、吹雪のような天候でした……。フィールドセンターより標高が50m程高いとのこと。実際に自分の足で移動して体感したことで、「たった50mでここまで変わるなんて!」と驚きとともに自然のすごさを如実に感じることができました。りーたさん、楽しいガイドウォークを本当にありがとうございました!
環境教育や体験プログラム、というと、ちょっと身構えてしまう方もいるかもしれません。ですが実際に参加した今だからこそ声を大にしてお伝えします。みんな1回やった方がいい!!!!お子さまはもちろんですが、私のような日常で自然にほぼ触れずに生きている大人世代も心の底から楽しめます。スノーシューを履いて雪の上に踏み出したあの瞬間、別世界に足を踏み入れたような感覚になりました。皆さんにもぜひ体験してほしい。「いやいや、自然とか興味ないんで……」という方でも大丈夫。インタープリターさんがユーモアたっぷりにガイドしてくれるので、「楽しめます!」ということは私が保障します!!(個人の意見で恐縮ですが!)

そして最後に、今回も国立公園乃印をゲットです。なんとハンコの設置は2027年までだそう。どこまで集められるか、乞うご期待!
▶国立公園乃印についてはこちらから
https://www.env.go.jp/nature/nationalparks/pick-up/stamp/






















































