絶滅危惧の地味な虫たち ── 失われる自然を求めて|エコブックス
知ってほしい、小さな命の生きる世界
環境省版レッドリスト(絶滅の恐れがある野生生物の一覧)に掲載された種のうち、小さく、目立たず、より知られていない昆虫などの生物を紹介する書籍。ゴミムシ、アリ、ガ、ハエ、カメムシといったほとんどが体長数ミリメートルの虫について、外見、生態、生息環境などの解説を並べる。図鑑のように情報を羅列するだけでは、興味のない読者は本を閉じてしまうが、本書のページをめくる手は先を急がんばかりに進む。
まず、登場する虫たちが面白い。カタツムリの空き殻の中だけに巣をつくるハチ、水槽に入れてしばらくすると突然死んだように浮き上がってくる水生の甲虫、アリの巣の中で育つアブ、アリの死骸を自分の身体につけて歩くカメムシ……。それに加え、随所で垣間見える著者の横顔にもほほが緩む。目的の虫を見つけるための数々の苦労はもとより、種名の由来を専門の研究者に尋ねて一言「知らん」と返されるなどのユニークなエピソード、そして小さな虫たちに向けられる愛情。
「絶滅危惧種が絶滅危惧種になってしまった理由の最たるものは、生き物に対する一般の人々の無理解・無関心にあると、私は考える」(84頁)。人間は、小さな命の営みがあることを知らぬまま、その暮らしの場を潰してきた。知ることは、彼らの絶滅を遠ざけるための一歩になるだろう。
筑摩書房 950円+税
小松 貴 著
1982年生まれ。信州大学大学院総合工学系研究科山岳地域環境科学専攻博士課程修了、博士(理学)。九州大学熱帯農学研究センターでの日本学術振興会特別研究員を経て、現在、独立行政法人国立科学博物館にて協力研究員。専門は昆虫学、好蟻性昆虫。
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