【特集】再エネの出力制御 ーー2種類の出力制御、その仕組みとは
2022年の夏は、猛暑の影響などにより厳しい電力需給状況が続きました。しかし、9月に入ってからの気温の低下とともに、この状況もひと段落。経済産業省からは、9月15日時点で今冬の電力需給予備率は4%台となり、安定供給の目安である3%を確保できるとの見通しが公表されています。
だだし、この見通しも冬の気温次第。今後厳しい寒さとなれば需給状況は依然として厳しいとして、国では電気の利用者に節電を促すための支援策「節電プログラム」などの取り組みを進めています。
増える出力制御
今年に入り、再生可能エネルギー(以下、再エネ)の発電を一時的に止める、もしくは抑える「出力制御」の新聞記事などをよく目にするようになりました。電気は電力会社が発電する量(供給)と、利用者が使う量(需要)を合わせることが基本です。そのために、発電した電気が余りそうなときに、太陽光や風力といった再エネや火力発電などの発電量をコントロールして需要と供給を合わせることを「出力制御」といいます。
電気は「同時同量」が基本
電気はその性質上、貯めておくことが困難です。余剰電力の貯蔵法としては、バッテリー(蓄電池)を利用するなどの方法がありますが、まだすべての余剰分を賄うには技術的またコスト面を考えてもほど遠いのが現状です。
そこで電力会社は常に、利用者の需要に合わせて発電量を調整しながら電気を供給しています。このように、使う電気とつくる電気の量を合わせることを「同時同量」といいます。
需要と供給のバランスが崩れると、発電所がつくる電気の周波数に変化が生じ、最悪の場合、大規模な停電が起きる可能性もあります。 電力会社では、利用者の需要量を予測して発電を行いますが、需要を完全に予測することはできないため、瞬間的に発電量を増やすこともあり、常に細心の注意を注いでいるのです。
発電量を抑える「出力制御」は、これまで日照時間が長く、太陽光発電の普及が進んでいる九州エリアで主に実施されてきました。2018年に九州電力管内で初めて実施され、その後は年々増加傾向に。今年の春以降は、九州電力のほかにも、北海道・東北・関西・中国・四国の各電力会社で実施されています。
国内の再エネの導入は2012年に始まった固定価格買取制度(FIT)をきっかけに大きな伸びを見せ、2012年に175.6万kWだった設備容量は2019年時点では679.2万kWに。電源構成における再エネ発電比率もFIT前の2010年時点で約10%だったものが2019年では約18%となっています。
発電量が自然環境に左右される再エネの活用が拡大するなかで、「出力制御」により発電量をコントロールする機会も増えています。 ただし、「出力制御」というと、発電を止める・抑えるというイメージが先行しますが、需要量の急激な増加などに合わせて、一時的に発電量を増加させることも出力制御のひとつです。
2種類の出力制御
「出力制御」を実施する場面としては① 需要と供給のバランスが合わないとき(需給バランス制約によるもの)と、② 送電線の容量を超えた発電量が予側されるとき、の2つがあります。
①の「需給バランス制約による出力制御」は、主に使用量に対して発電量が多く、余ってしまうと予測されるときの制御です。火力発電の出力調整や連系線の活用による他エリアへの送電を行ったうえで、それでも電気が余ると予想される場合に、再エネの出力制御を行います。
また②の「送電線の容量による出力制御」は、送電線・変圧器の容量に合わせて行う出力制御です。
送電線とは発電した電気を利用者のもとへ送るための電線です。発電所でつくられた電気は高電圧のためそのままでは使用することができません。送電線を通って送られる電気は、変圧器で電圧を下げてから利用者のもとに届きます。この送電線・変圧器に流すことのできる電気の量には上限がありますので、これを超過して電源を接続する場合には、出力制御が必要になります。これを「系統容量による出力制御」といいます。 現在日本では、これら送電線の整備が十分ではありません。また同じく各エリアを結ぶ連系線(電力会社同士が電気をやりとりするための送電設備)についても整備が急がれており、これらが進むことで、系統容量による出力制御の抑制量も抑えることができるのです。
出力制御で再エネ利用拡大
上記で紹介した「需要と供給のバランスを一致させるための出力制御」は、法令であらかじめ決められた「優先給電ルール」に基づいて行われています。
使用量よりも発電量が上回る場合、下記のルールに沿って、まずは火力発電の出力の抑制や蓄電池への充電を行います。それでもまだ電気が余る場合には、バイオマス発電の出力制御を行い、次に太陽光・風力発電の出力制御と続きます。なお、この順番は各発電の発電コストや技術的特性に合わせて決められています。
つまり優先給電ルールを適用することで、具体的には日中の太陽が出ている時間帯(太陽光発電の増量時)には火力発電を絞り、太陽光をはじめとする再エネの発電を優先させること(再エネの出力制御量を抑えること)ができ、再エネの活用拡大へとつながっているのです。
◇優先給電ルールに基づく対応◇
(1)火力(石油、ガス、石炭)発電の出力制御、揚水発電のくみ上げ運転、蓄電池の活用
(2)地域間連系線を活用した他エリアへの送電
(3)バイオマス発電の出力制御
(4)太陽光発電・風力発電の出力制御
(5)長期固定電源(水力・原子力・地熱)の出力制御
※(1)から順に出力制御を行う
「オンライン代理制御」スタート
2022年4月より、出力制御の新たな取り組みとして、実際の需給状況に近い柔軟な調整の実現をめざした「オンライン代理制御」が始まりました(実際の運用開始時期はエリアごとに異なります)。
これまでの出力制御は、需給予測に合わせて、電力会社からの指示により発電所内で手動操作により発電を止めたり復帰させたりしていました。これを「オフライン制御」といいます。
一方「オンライン制御」は、ネットで受信した電力会社からの指示(スケジュール)に基づいて、自動的に制御するというもの。
「オンライン代理制御」では、オフライン制御事業者が行うべき出力制御を、オンライン制御事業者が代わりに実施します。これによりオフライン制御事業者が出力制御を行ったとみなされます。
オンライン制御事業者は、代理制御をした時間も発電を行ったものとみなして、その時間に発電していたであろう発電量にFIT買取価格を乗じた金額が、買取義務者より代理制御の対価として支払われます。オフライン制御事業者は、本来制御を行うはずだった時間帯の発電については、買取代金を受け取ることができません。
オンライン制御を実施することで、実際の需給状況に近い柔軟な調整が可能になり、これまでよりも、さらに出力抑制量を抑えるための仕組みなのです。
詳しい仕組みは、資源エネルギー庁のサイトもご覧ください。
2050年のカーボンニュートラルの実現、またそれにともなう再エネ主力電源化にむけて、発電設備の増加とともに、さまざまな仕組みづくりが進められています。今回はそのひとつである出力制御についてまとめました。 再エネの利用拡大が進むなかで、制度や仕組みにも見直しの必要性が生じます。今後も注目の制度について、新たな動きとともにご紹介していきます。
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