特集/CCSとはーーCO2の地下貯留で排出量削減に貢献
2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、世界各国でその対策が加速しています。 日本国内では今年6月に政府より「2021年度における地球温暖化対策の進捗状況」が公表されました。産業界が実施する低炭素社会実施計画の検証では、30年度の目標に対して、産業界ですでに3分の1を超える業種が目標に到達しているとの結果が出されたのです。
一方で国内全体の温室効果ガス排出量を見ると、2013年度比で20.3%の削減。30年度の目標として政府が掲げる「46%削減」には至っておらず、まだまだ継続的な取り組みが必要な状況です。
今回のコラムは、温室効果ガスの代表格である二酸化炭素(CO2)の排出量削減に向け、実用化への研究・開発が進むCCSについてまとめます。
【目次】
・CCSとは
・CCSの発展形「CCUS」とは
・海外でのCCSの動向
・日本のCCSの現状と課題
・CCSの実用化に向けて
CCSとは
「CCS」とは「Carbon dioxide Capture and Storage」の略。日本語では「二酸化炭素回収・貯留」技術といわれています。火力発電所や化学工場など、大量の温室効果ガスを排出する場所からCO2だけを分離して集め、地中深くの「貯留層」に圧入して貯留するというもの。貯留分がCO2排出量の削減分とみなされるのです。
貯留層に圧入されたCO2は、長い年月の経過により塩水に溶解したり、岩石のすき間で鉱物になると考えられています。またIPCC(国連気候変動に関する政府間パネル)の調査では、地層を適切に選定し、適正な管理を行うことで、貯留されたCO2は1000年にわたって貯留層に閉じ込めておくことができるとの報告もされています。
なお貯留場所については、地下深くであればどこでいいわけではなく、さまざまな条件があります。まず貯留層は地下1,000メートル以上の深い場所にあり砂岩などが集まるすき間の多い層である必要があります。砂岩のすき間にCO2が貯留されるのです。そして貯留層の上部には、「遮へい層」としてCO2を通さない泥岩などの層が必要です。
CCSの発展形「CCUS」とは
CCUSは「Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage」の略。回収・貯留したCO2を資源としても再利用しようというものです。
CO2の再利用の方法としては、CO2をプラスチックなどに変換して有効利用する方法(カーボンリサイクル)や、これまでアンモニア分解などの方法で作り出したCO2を原料としていたドライアイスの製造を、CCSで回収したCO2を使って製造する方法などがあります。また直接利用の例として、アメリカでは「石油増進回収」という方法が広まっています。これはCO2を油田に注入することで、油田にある原油を押し出して効率的に石油を回収するというもの。すでにビジネスとして実用化されているそうです。
【CCSとCCUSの違い】 CCS : Carbon dioxide Capture and Storage 二酸化炭素を回収・貯留 CCUS : Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage 二酸化炭素を回収・貯留・資源として利用 |
海外でのCCSの動向
上記の「石油増進回収」のようにCCS・CCUSの取り組みは、世界各国で進められています。経済産業省の資料によると、2022年中に世界でCCSに関するプロジェクトが新たに 61 件増え、合計で196件のプロジェクトが進行中です。
アメリカでは新法の成立により10年間で約 50 兆円の対策費の支出が見込まれています。中国では、2050年に年間貯留量20億tを目標とした国内開発および他国との関係構築が進められています。またこれまでCCUSに否定的だったドイツも、2022年度末にCCUSの国内政策の整備に着手。オーストラリアのほかインドネシアやマレーシア、東ティモールなどアジア圏の国々でも CCSプロジェクトが始まっています。
日本のCCSの現状と課題
■苫小牧の実証実験
国内では、2012年より北海道・苫小牧での大規模なCCSの実証実験が行われてきました。それ以前もCO2を分離・回収して貯留するまでの各工程の技術は確立されていましたが、本実証では、それらが統合したシステムとして機能するのか、という点が焦点となりました。
実証設備の設計・建設などを経て2016年4月より、苫小牧港沖の海底下1,000 メートル 付近と2,400 メートル 付近の2ヵ所の貯留層にCO2を圧入する作業を開始。2019年11月、目標としていた累計30万トンのCO2圧入を達成しました。統合システムとしての運用が実証された現在もCO2流出などの不具合がないか、モニタリング調査が続けられています。
■CCS適地の開発
国の調査によると、CO2の貯留に適した貯留層は国内に11地点確認されており、計160億トンの貯留が可能であると推定されています。これら適地については、今後も経済性などの分析・評価が行われ、実際の試掘・開発につながることになります。しかし一方で、現状でCO2を多く排出する工業地帯などが太平洋側の沿岸域を中心に点在するのに対し、貯留適地の多くは日本海側にあり、これが課題のひとつとなっています。
■CO2の長距離船舶輸送
苫小牧での実証や適地開発を受け、CO2の船舶による長期輸送を実現するため、排出源となる発電所や工場から貯留適地までの長距離輸送を想定した実証事業も進められています。具体的には、京都の舞鶴発電所から、苫小牧への約1,000 キロメートル をはじめ、広島‐苫小牧間の長距離輸送航路などが計画されており、来年2024年からの輸送実証を予定しています。
CCSの実用化に向けて
上記のほかにもCO2分離回収にかかるコストの低減や法整備、適地自治体の理解促進など、課題として上げられるものはまだまだありますが、今年に入り政府ではこうした課題を解決し、CCS活用の道筋をつけるためのロードマップを作成しました。ロードマップでは、2050年時点でのCO2貯留目標を1.2億~2.4億トンと見据え、2030年までにCCSの実用化をめざすことが掲げられています。
目標達成のためには2030年からの20年間に年間で約600~1,200万トンずつ貯留量を増やしていく必要があります。実用化に向け、現在から30年までの期間はビジネスモデルの構築期。国による集中的な支援のなかで、企業などによる各種調査・実証のほか、事業モデルの確立などが進められていきます。
【CCS長期ロードマップで掲げられた具体的アクション】 ● CCS 事業への政府支援 ● CCS コストの低減に向けた取組 ● CCS 事業に対する国民理解の増進 ● 海外 CCS 事業の推進 ● CCS 事業法(仮称)の整備に向けた検討 ● CCS 行動計画」の策定・見直し (出典)経済産業省「CCS長期ロードマップ検討会 最終とりまとめ」 |
2023年9月25日の日本経済新聞の記事に「CO2海外貯留へ初の輸送 マレーシアと協議へ」との記事が掲載されました。政府ではCCS・CCUSの普及促進に向け、国際会議での積極的な情報発信や、アジア地域全体でのCCUS活用に向けた「アジアCCUSネットワーク」の構築など積極的な国際連携も進めています。
カーボンニュートラルの達成は、世界の多くの国々がめざす道。各国のCCS・CCUSの動きに注目していきたいですね。
【参考資料】
経済産業省「知っておきたいエネルギーの基礎用語 ~CO2を集めて埋めて役立てる「CCUS」」
経済産業省「CCS 長期ロードマップ検討会 最終とりまとめ」
経済産業省「カーボンリサイクル技術ロードマップ」
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