話題のオフィス緑化=「バイオフィリックデザイン」とは?
今日もオフィスで慌ただしく仕事をしているあなたは、どんな環境で働いていますか。もしコンクリートむき出しの無機質な空間で仕事をしているとしたら、リラックスの時間を取り入れることも必要かもしれないですね。近年、ストレスの軽減効果やリラックス効果を狙い、植物など自然を感じる要素や素材を取り入れた「バイオフィリックデザイン」を導入する企業が増えています。今回はその効果と導入事例などについてご紹介します。
バイオフィリックデザインとは?

「バイオフィリックデザイン(biophilic design)」とは、建物や空間、都市設計において、「自然と結びつきたい」という人間の本能的欲求を基に、植物や自然光、水などの要素を効果的に反映した空間デザインのことです。その由来は「バイオフィリア(biophilia)」という概念。「バイオ(生物・自然)」と「フィリア(愛・友愛)」を組み合わせた造語で、自然と触れ合うことで健康や幸福感を得られると解釈されます。バイオフィリックデザインは視覚的なインテリアとしてだけでなく、人の心身の健康(ウェルビーイング)に寄与するといわれ、導入する企業が増えています。
【関連サイト】
国土交通省 中部地方整備局:グリーンインフラの事例
https://www.cbr.mlit.go.jp/mie/river/conference/ryuiki_chisui/pdf/r31214_sankoshiryou-01.pdf
バイオフィリックデザインが注目される背景

以前のオフィスデザインは、“対顧客”を意識したものが主流でしたが、近年は経営において“人財が重要”という考えが根付いたこともあり、社内の健全な職場づくりによって生産性の向上や人財の定着を図るデザインが注目されるようになりました。自然との接点が少なくなりがちなオフィスにバイオフィリックデザインを導入し、日々自然と触れ合える環境をつくり出すことが重要視されるようになったのです。
バイオフィリックデザインの種類

バイオフィリックデザインには以下の3種類があるといわれています。視覚的・聴覚的・嗅覚的なアプローチで効果を発揮します。
①「直接的な自然の体感」
「自然を生で感じること」をコンセプトに日光や空気、植物・天気・風景・火をそのまま空間に取り入れる方法。
例)観葉植物を置く、大きな窓で自然光を取り込む、キャンドルを灯す、アクアリウム(熱帯魚水槽)を置くなど。
この手法は効果を大きく感じられる一方、コストや労力がかかります。場所の制約がある点にも注意が必要です。
②「間接的な自然の体感」
自然をモチーフにしたデザインを取り入れたり、天然素材の家具を使ったりすることで、空間を自然に近づけることをコンセプトとしています。
例)フェイクグリーンを飾る、無垢材のフローリングや家具を使う、壁紙をナチュラルカラーの色調に整える、自然をモチーフにした写真やモニター、絵画などを飾る、鳥の鳴き声や川のせせらぎなどのBGMを流す、アロマディフューザーを使って森林やアロマの香りを空間に拡散するなど。
これらは場所の制約やコストが少なく取り入れやすいのがポイントです。
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置くだけで空気がきれいになる“フェイクグリーン”(達人コラムVol.178)
https://eco-tatsujin.jp/column/vol178_r.html
③「空間と場所」
①②をモチーフにしたデザインにくわえ、「安全や安心を感じられる心地よい場所」のある建築物や文化的なデザインなどがあげられます。
オフィスに導入するのはコスト面、構造物の複雑さから難しく、もっぱら駅や空港、大型のショッピングモール、都市計画などに使用されます。たとえば、シンガポールのチャンギ空港直結の複合施設には巨大な屋内植物園や滝があり、空港全体が緑に包まれた空間になっています。シンガポールは「ガーデンシティ」として知られており、ほかにもバイオフィリックデザインを取り入れた多数の建築物があることで有名です。
導入効果と導入事例

■導入効果
①環境への影響
バイオフィリックデザインは、美しい空間をつくり出すだけでなく、環境保護にも大きく貢献します。
- エネルギー効率の向上:自然の光や風を活用することで、電気や空調の使用を減らし、エネルギーの消費を抑えることができる。
- 生物多様性の促進:都市部に緑地や水辺を設けることで、さまざまな生き物が住める場所を提供し、自然のバランスを保つことができる。
- 都市の暑さ対策:緑や水の要素を取り入れることで、都市部の気温上昇を抑え、より快適な環境をつくり出すことができる。
- CO2削減:植物の光合成により、空気中のCO2を吸収し、地球温暖化の抑制に役立つ。
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野菜を育てるだけじゃない!都市農業のさまざまな役割(サステナブルノート)https://econews.jp/column/sustainable/10207/

エネ消費実質ゼロすべてのビルに #45/大成建設 株式会社(Eco Story)https://econews.jp/report/ecostory/15064/

生物多様性損失の原因と私たちにできること(サステナブルノート)
https://econews.jp/column/sustainable/11228/
②従業員のモチベーションアップ
ストレス軽減によって従業員の幸福度が高まり、仕事のモチベーションが向上することで生産性、創造性の向上が見込めるといわれます。
(※)空間デザインに関する調査を行う、米Interface社のHuman Space Reportによると、職場で自然と接する機会がある人は機会がない人に比べ、創造性が15%、生産性が6%、幸福度が15%増加したという結果が得られた。
この取り組みはSDGsの目標3「GOOD HEALTH AND WELL-BEING(すべての人に健康と福祉を)」にも貢献しています。
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今さら聞けないSDGsの基本――9月はSDGs週間
https://econews.jp/column/sustainable/9499/
【参考サイト】
ユニセフ SDGs CLUB
https://www.unicef.or.jp/kodomo/sdgs/17goals/3-health/
導入効果が期待できる一方、導入時には植物の管理・維持のためのメンテナンス費用を考慮し、導線の邪魔にならない配置を検討することにくわえ、地震や火災といった万が一のときの避難経路の妨げとならないよう、安全面にも配慮した計画やレイアウトを考えなければならないといった課題もあります。
■導入事例
アメリカのプラットフォーム企業では、デスクを自然光の届く範囲に設置、不使用時に自動で消灯する照明を取り付け、1年でおよそ8万kWhもの電力を削減しました。国内の発動機や農機などを扱う企業の本社ビルは「自然との共生」をコンセプトに建てられ、外壁を緑化。社屋の温度が上がるのを防ぐ効果が得られました。葉がCO2を吸収してくれるので、脱炭素化にも貢献しています。また、最上階にはフロア内にガラス張りの養蜂場が設けられ、自然を模した景観が楽しめます。ほかにも、大手コーヒーチェーンのとある店舗は、地域の森の木々や水、花をふんだんに取り入れ、リラックスした店内でおいしいコーヒーとほっとするひとときを提供しています。
おわりに
バイオフィリックデザインはさまざまな研究や調査で幸福度・創造性・生産性に対する効果が実証されています。また、オフィスだけでなく、複合施設や集合住宅、医療機関とさまざまな場所に導入が進んでいます。バイオフィリックデザイン空間は一般に開放されているところもありますので、興味がありましたらぜひ訪れてみてください。
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