【第8回】“公民連携”で目指すカーボンニュートラル/小田原市

東日本大震災を機に持続可能なまちづくりを目指す

 1998年に「小田原市環境基本計画」を策定するなど、いち早く環境問題に取り組んできた小田原市。2019年11月に2050年のゼロカーボン実現を宣言。2022年11月には改正地球温暖化対策推進法の内容や現行計画の成果を踏まえ、2030年度までに市全体のCO2排出量を2013年度比で50%削減する「小田原市気候変動対策推進計画」を発表した。目標達成に向け、再エネ導入促進、省エネ等の環境配慮行動の促進、脱炭素型まちづくりなど、並行してさまざまな施策を進めている。その同市が持続可能なまちづくりに注力する契機となったのは東日本大震災だった。

「市内の被害は比較的軽微でしたが、地元企業や市民らが出資し地域のエネルギー会社を立ち上げるなど、エネルギーの利活用に関してさまざまな機運が生まれました。こうした動きに呼応して市も2012年にエネルギー政策推進課を立ち上げ、サポートしてきました。現在私たちはゼロカーボン推進課として、脱炭素に向けて広く取り組み、持続可能なまちづくりを目指しています」(小田原市環境部 ゼロカーボン推進課 副課長 内田由美さん)

 そうした市の姿勢を象徴するのが、民間企業を事業主体として取り組む地域エネルギーマネジメントモデル事業だ。EV(電気自動車)を活用したカーシェアリング事業が行われているが(写真)、このEVを活用することで地域のエネルギーマネジメントも実現している。

「クリーンな交通手段を確保し、地域の再エネを有効活用するために再エネ優先充電やピークカットなどに取り組んでいます。また、緊急時には非常用電源として供出できるような仕組みも用意しています」(ゼロカーボン推進課 エネルギー事業推進係長 小野貴朗さん)

 実際、2022年6月の電力需給ひっ迫時には市役所のシェア用EVを含む9台からの放電で電力を賄い需給緩和に貢献した。現在は市内外29ヵ所で51台のEVをシェアしており(2022年6月時点)、今後は順次台数および設置箇所を増やすほか、市の公用EVを非使用時間にシェアする計画がある。

小田原市役所に設置されたカーシェアリング用のEV(電気自動車)

「日常の一部」が理想

 現在小田原市で進むのが一般送配電網を活用した独自の小規模電力網(マイクログリッド)の構築である。市郊外部でマイクログリッド対応型のエネルギーマネジメントシステムを運用しており、平時は太陽光発電所と大型蓄電池を活用し、グリッド内の企業のデータサーバおよびカーシェアEVに再エネを供給。非常時になると送配電網から切り離され、周辺エリアに電力を供給することになる。

「これらの取り組みは、市単独の施策でなく民間事業者との“公民連携”行っています。本市の脱炭素施策はこの連携が基本です」(小野さん)

 今後の同市の取り組みについて、内田さんは「温暖化しているから対策を進めなければいけないと私たちが言ったところで、その活動が単に我慢を強いるものでは、理解も協力も得られません。地域の人々と理想的な将来像を共有し、場合によっては補助金などを用意することで具体的な行動を喚起し、楽しく日常の一部として脱炭素に取り組むのが理想だと思っています。今後も市民の皆様と力を合わせ、社会のありようを大きく変えるイノベーションを通じ、持続可能なまちづくりに取り組みます」と語った。

こぼれ話
記事中のマイクログリッドは非常時に一般の送配電網からは切り離され、市民の避難場所となる森林公園に電気を供給します。災害対策にもなるレジリエンスを意識した取り組みが行われていることが印象的でした。また、市は今後観光客向けにEVを貸し出すサービスをさらに拡大したいとのことでした。新型コロナウイルス感染症の扱いが変わった今後は観光客も増えるだろうと見込まれており、同市の取り組みに引き続き注目していきたいと思います。

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