• All for JAPAN
  • 東日本大震災から復興への歩みをみせる被災地の企業や日本テクノの取り組み

できる限りの備えで鶏と生きる Scene 54

 2022年9月23日夜半、台風15号が静岡県内を襲った。有限会社清水養鶏場のある静岡市葵区はこれまでで最大の雨量を記録し、一帯が停電した。代表取締役の清水茂さんの自宅から職場である養鶏場に向かう道路も斜面が崩壊した。
 清水さんはそのときを振り返り「夜になり一帯が停電して鶏舎が心配になったのですが、夜中の行動は危険だと考え、雨が少し弱まった翌日の夜明け前に急いで自宅を出ました。養鶏場は河川のそばにあります。その川沿いの道を軽バンで向かったところ、途中で土砂崩れが起きていて道がふさがれ通れなくなっていました。状況を確認しようと車から外に出ると、依然として雨は降り続いていて、川はごうごうと音を立てて流れている。暗くてはっきりとは見えなかったのですが、その音だけでも今にも氾濫しそうだと思い怖かったですね」と話す。

代表取締役の清水茂さん

 とりあえず車が通れるスペースを確保しようと、清水さんは歩いて鶏舎に行き、鶏糞をかき出す重機に乗って道がふさがれた現場に戻り、崩れた土砂を取り除いた。万一のときの避難路をつくって、ようやく鶏舎の周りを点検した。
 「養鶏場の裏山の沢から土砂が押し寄せ周囲の側溝が埋まり、敷地内は大量の泥に覆われていました。鶏舎内は土砂の被害は免れたのですが、近隣の送電鉄塔が倒れ、一部で河川が氾濫し水道が止まるなど大きな被害が出ているとニュースで知り不安でした。朝になると鶏が一斉に餌をねだり騒ぎ出しますが、停電で給餌機やポンプは動きません。まずは道の確保を優先し、通れるようになった午後からパートさんを集め、機械化されていた集卵作業を手作業で行い、なんとか出荷できました」
 パートさんが来て集卵ができるようになり、清水さんが鶏の世話をしようとしたとき、停電は解消。清水さんはほっとした。

養鶏場に向かう途中の土砂崩れの現場。当時は川がごうごうと音を立てて流れていた

 事業継続にも影響を及ぼしかねない災害規模であったが、養鶏場は簡単に移転できる施設ではない。悩んだ結果、清水さんは同所での再出発を決め、まずは1週間かけて敷地内の泥を取り除いた。
 「災害から1ヵ月たち静岡市の災害対策でようやく側溝の土砂のかき出しが始まりました。これからは災害に備えて非常用発電機の設置や沢の整備などの対策をとっていきます。できる限りの備えをしながら、ここで鶏とともに生きていきます」

災害から1カ月がたち、市の支援で側溝の土砂のかき出しが始まった

関連記事一覧