世界各国が目指すカーボンニュートラル 実質ゼロに向けた技術
2020年10月、菅義偉首相は国会の所信表明演説で「2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」と宣言した。二酸化炭素(CO2)をはじめとする温室効果ガスの排出量を、森林などによる吸収量と同等まで引き下げ、差し引きゼロにするのがカーボンニュートラルである。
世界の主要国も同様の方針を打ち出しており、中国は2060年をカーボンニュートラルの目標年とし、電気自動車(EV)や燃料電池車(FCV)などの脱炭素技術の産業育成に力を入れる。アメリカは、EV普及やエネルギー技術開発などの脱炭素分野に4年間で200兆円を投資する計画である。欧州連合(EU)も2050年のカーボンニュートラルを目指し、10年間で120兆円のグリーンディール投資計画を実行する。
世界では120以上の国と地域が「2050年カーボンニュートラル」の目標を掲げた。これらの国が世界全体のCO2排出量に占める割合は37.7%。2060年までのカーボンニュートラル実現を表明した中国も含めると、全世界の約3分の2に及ぶ。
実質ゼロの実現には徹底的な排出量削減と同時に、吸収量を拡大させる取り組みも必要になる。植林などによる森林の確保をはじめ、大気中のCO2を直接回収し地下貯蔵するといった技術も実用化を進めていかなければならない。
それに伴い工場や大気中から回収したCO2を有効利用する実証試験なども進んでいる。得られたCO2と水素を触媒と反応させ、メタン、エタノールなどの石油代替燃料や化学原料などの有価物を生産する技術開発、回収したCO2を地下の油層に圧入し、原油回収率を向上させる石油増進回収などだ。
一方の排出削減に向けた活動では、再生可能エネルギー(再エネ)発電拡大への期待も多い。だが、専門家の試算によれば再エネが60%になった場合、その発電量は200ギガワット以上となり、日本の系統容量を超えるともいわれている。
この事態に対処するためには、地域内で電力需要を創生し、そこにある再エネ設備で給電可能な自立型マイクログリッドの整備が不可欠になる。現在、経済産業省や環境省などは、そうした地域自立型の電力網の構築に積極的に取り組んでいる。
早稲田大学 名誉教授。電力技術懇談会会長。環境・エネルギー・電力システムの市場分析に特化。再生可能エネルギーやスマートグリッドに代表される環境・エネルギーシステム研究の第一人者。