環境教育の現場から

全国各地の環境教育授業の様子をレポート。地域の特色を活かし地元住民と協力しながら進める授業や、企業が出張して行う出前授業などユニークな取り組みを紹介

Vol.3 コンセプトは「ふれあい」「いのち」「共生」/足立区生物園

東京都足立区の北部、住宅街に囲まれた元渕江公園の敷地内に足立区生物園はある。開園から32年、コンセプトの「ふれあい」「いのち」「共生」を表すように子どもだけでなく幅広い世代の人々が何度も足を運ぶ地域に愛される施設だ。
2階建て施設の屋内では国内外のさまざまな昆虫類、魚類、両生類、は虫類などに出会える。吹き抜けの大温室には沖縄などに生息する南方系のチョウから東京でも見られる身近なチョウまで約20種類500匹以上が1年中飛び交う。屋外施設にはカンガルー、ヒツジ、ヤギ、モルモットなどがいて、合計約500種類の生きものを飼育している。

未来の夢につながる体験

常設展示のほか、見るだけではない体験型の展示をコンセプトにした多様な企画展や「飼育員体験」「昆虫標本づくり」といったイベントも多数開催する。解説員の金井田かないだ美友みゆさんは「〝楽しかった〞だけで終わらないような企画を考えます。楽しい記憶が残るのは大切ですが、参加者の興味や関心を深め、その後の成長につなげたい」と話す。
例えば水生生物の飼育員体験では作業に並行してクラゲの繁殖に関する知識を伝えた。参加者からは「ク
ラゲのことをもっと深く知りたくなった」と声が上がる。昆虫の飼育員体験では「将来は自分が絶滅危惧種
を繁殖させたい」と未来につながる思いも聞こえた。
「昆虫標本づくり」ではハナムグリという昆虫で標本をつくった。残酷だという意見がある一方で「ここは生きものとのふれあいを通じ、いのちの大切さを学ぶ場所」と金井田さん。死んだ生きものも標本にすれば教材として価値が生まれる。1つの命がくれたものを感謝の心を持って扱い、学びの機会にするのがこのイベントの狙いだ。
催し物だけでなく常設展示も手は抜かない。解説員が常駐する「解説コーナー」は、個々の疑問をいつでも
自由に質問できる場所。納得するまで一対一で解説員がじっくり向き合う。毎日開催される「ごはんの時間」
では、飼育員がエサのあげ方、その生物の習性、生育環境などを伝える。さまざまな生きものが日替わりで
紹介され、この日は足立区にかつて生息していたゲンゴロウだった。幼虫と成虫の食べ方の違いなどをジェ
スチャーも交えて説明。生きものに対する飼育員の愛情が伝わってくる楽しい話が参加者の心をつかむ。

ゲンゴロウのごはんの時間
生きもの研究室の解説コーナー
昆虫標本づくりのイベント

来園する子どもには園で初めて出会う生きものもいる。最初は見た目だけで怖がる子も多い。しかしそれ
は触れ合い方を知らないからだという。金井田さんは「ここでのふれあいを通して、適切な関わり方を知り、
苦手意識が少しでもなくなればうれしい」と話す。
足立区民全員が訪れたことのある施設に——多くの人に親しまれる場所になるのがスタッフ全員の願い。
今後も生きものや自然の魅力が伝わる楽しい展示やイベントを企画していく。

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