第14回 黒潮の流量に長期的な変化は見られないが、日本海の深層では水温上昇や酸素濃度の低下が見られる
「日本の気候変動2020」を読み解く:地球の温暖化現象について気象庁は最新の科学的知見をまとめ、気候変動に関する影響評価情報の基盤情報(エビデンス)として使えるよう、『日本の気候変動』を発行しています。最新の知見が盛り込まれた本書の内容を紹介します。
黒潮は、日本列島の太平洋の沖を、主に南から北に向かって流れる暖流です。太平洋上には偏西風や貿易風といった年間を通して恒常的に吹く風が存在します。これらの影響で北太平洋中央の海水面は高く盛り上がり、地球の自転などとあいまって時計回りの潮流が発生します。この潮流は亜熱帯循環と呼ばれ、黒潮は亜熱帯循環の1つです。黒潮はフィリピン沖で発生し、北上しながら一部は日本海側に分流して対馬海流となり、その後トカラ列島を東側に進み、日本海沖に達します。そして黒潮は、犬吠埼付近で本州を離れ、黒潮続流と呼ばれる東向きの流れになります。ちなみに黒潮の水温は東シナ海近辺で大体28℃(夏)から21℃(冬)、遠州灘付近で27℃(夏)から17℃(冬)となっています。2月の関東沿岸の海水温の平均は15℃近辺のため、だいぶ温かいといえるでしょう。ちなみに日本の夏が高温多湿なのは黒潮による影響もあります。 このように日本の気候に大きな影響を与える黒潮ですが、その流量に長期的な変化は見られないそうです(以下“”部分は『日本の気候変動2020年版』からの引用です)。
・日本南岸の黒潮流量には、1970年以降で有意な長期変化傾向は見られない。
・日本海の深層では水温上昇や酸素濃度の低下が見られる。
(以下略)
本書39P
日本全体の平均気温の上昇などと黒潮との関連は見いだせないということです。これは、地球温暖化が海流などの変化によらず、恒常的に起きているということを示唆しているとも言えます。
その次の“・日本海の深層では水温上昇や酸素濃度の低下が見られる。”については、地球温暖化が影響を及ぼしていることが疑われます。第11回で「オホーツク海の海氷面積は減少しており、今後も減少すると予測される」ことを紹介しましたが、日本海の深層の水温上昇と酸素濃度低下はこの現象と深くかかわっています。 これについては『日本の気候変動2020(詳細版)』を紐解いてみましょう。
日本海は、比較的浅い海峡を通じて東シナ海や太平洋とつながっていることから、海水の交換は表層に限られ、約300m以深は水温や酸素濃度などがほとんど一定の、日本海固有水というほぼ均一な海水で占められている。日本海固有水は、日本海北西部の大陸に近い海域で冬季に海面で強い冷却を受けて密度が大きくなった海水が沈み込むことにより形成されると考えられている。日本海盆、大和海盆(編集注:日本海の海底にある盆地状の土地の名称)における気象庁の長期観測の結果によれば、深さ2,000mにおいて水温の上昇率は10年当たり0.02℃、酸素濃度の低下率は10年当たり7~9μmol/kg という長期的な変化傾向が認められている。近年は、形成域であるウラジオストク沖で冬季に気温が著しく下がることが少なくなり、海面の冷却が弱まる傾向にある。その結果、日本海固有水の沈み込みが弱まり、低温で酸素が豊富な海水が深層まで供給されにくくなっていると考えられている(Gamo et al., 2014)。
『日本の気候変動2020(詳細版)』173~174P
地球温暖化により海氷や流氷の減少だけでなく、沈み込みの減少といった海水流の変化も表れています。ちなみに低温で酸素が豊富な海水が深層まで供給されにくくなると、どのようなことが起きるのでしょうか。
海底には深海魚やカニといった深海性の生物、さらに死骸などを分解するバクテリアが生息しています。酸素が深海に届かなくなると、これらの生き物が死滅します。その結果、生態系のバランスが崩れ、日本海の恵みが失われる可能性が高まります。
<コラム> 日本海の海底の生き物たち
ノドグロ、ズワイガニ、白エビ、バイ貝、キンメダイ…。
これらの生き物の名前を聞いたことはありますか?
これらは日本海の海底にすむ生き物で、しかもそのおいしさゆえに特産品となっています。
地球温暖化により低温で酸素が豊富な海水が深層に供給されなくなると、これらの生き物は徐々に住処を奪われることになります。近年、日本沿岸の漁獲の変化が話題になっていますが、日本海においてもそれは変わりません。現在のペースで日本海の海底で酸素含有量が減っていくと、100年後には無酸素になる可能性が指摘されています。そうなったときにはこうした海の幸は、めったに手に入らないものになるでしょう。
そして、その時に嘆いても遅いでしょう。 身の回りからできる地球温暖化対策にぜひ取り組みましょう。
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