再エネ大量導入時の慣性力低下に歯止め
今後が期待されるスマートインバーター
現状の仕様のまま太陽光発電装置がより多く電力系統へ接続されていくと送電の安定性は低下するといわれている。火力や原子力など従来の設備(以下、発電機)と異なる特性があるからだ。
現在の太陽光発電インバーターは、電流制御型(または電流源型)といわれるもので、系統に接続しているほかの発電機がつくる交流電圧がないと運転できない。自らは電圧を発生せず、系統側の電圧に追従するような動作になるためGFL(GridFollowing)型と呼ばれている。
電力系統で急に負荷が増える場合、これまでは発電機が出力を増加して周波数および電圧を維持してきた。その発電機が太陽光大量導入で電圧を発生しないGFL型インバーターに置き換わっていくと、負荷急変動時に周波数と電圧維持の機能が低下してしまう。これが電力系統の慣性力低下と呼ばれる現象である。
太陽光に限らず蓄電池用のインバーターも多くはGFL型。さらに風力発電でも発電した交流を一度直流に変換しGFL型インバーターを介して系統に送る方式が多い。
この欠点を補う技術が、近年、精力的に開発が進められているGFM(Grid Forming) 型のインバーターである。インバーター内部に電圧源が存在するように動作する機器だ。これを備えた再生可能エネルギー(再エネ)電源が増えれば、電力系統の慣性力低下を防ぐことができ安定化が図れる。
この2年間で環境省の委託事業を受けて開発されたGFM型のスマート同期インバーター(SSI)がある。荒井純一工学院大学名誉教授の研究グループがこのインバーター制御の開発に成功した。負荷が増えた場合、発電機と同期して電力を増やし、周波数と電圧を維持するように動作する。電力系統の慣性力を低下させない効果が期待できるものだ。
100kW 定格のディーゼル発電機と20kW定格のSSIを搭載した蓄電池5台、それに負荷をつなげたマイクログリッドをつくり、数時間の運転を行う検証実験をした。結果、GFMの機能と負荷変動時の安定性を確認している。
このようなGFM型インバーターが実用化されていけば、再エネのさらなる導入が可能になるとともに電力系統停電時の地域マイクログリッドの自立運転も、より安定化させることができる。
早稲田大学 名誉教授。電力技術懇談会会長。環境・エネルギー・電力システムの市場分析に特化。再生可能エネルギーやスマートグリッドに代表される環境・エネルギーシステム研究の第一人者。