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特集/エネルギー白書2025発行――日本のエネルギーの「いま」を知る

経済産業省・資源エネルギー庁では毎年「エネルギー白書」を発行しています。これは「エネルギー政策基本法第11条の規定に基づくエネルギーの需給に関して講じた施策についての年次報告」のこと。日本のエネルギー施策がどのような考えに基づいて行われているかをまとめた報告書です。今回は、2025年6月に発行された「エネルギー白書2025」の掲載内容について紹介します。



エネルギー白書とは(目次紹介)

エネルギー白書は、上記のように「エネルギー政策基本法」に基づく法定白書。法律に基づいて国会に提出することが義務付けられている年次報告書で、国民への周知も目的とされています。2004年から毎年作成されており、今回の「2025年版」で22回目の発行。第1部と第2部に分かれ全130ページにわたる構成で、第1部では各年度のエネルギーを取り巻く動向を踏まえた分析を、第2部ではエネルギーに関してその前年に講じられた施策がまとめられています。

なお、2011年の東日本大震災の発生以降は、毎年、福島の現状を紹介するページが設けられています。2025年版では燃料デブリの取り出し状況やALPS処理水について放出の安全性が確認されたことなどを紹介しています。

アウトラインを把握するために、まずは目次を見ていきましょう。

  エネルギー白書2025の目次
 第1部 エネルギーを巡る状況と主な対策
 第1章 福島復興の進捗
 第2章 GX・2050年カーボンニュートラルの実現に向けた日本の取組
 第3章 主要10か国・地域のカーボンニュートラル実現に向けた動向とその背景

 第2部 2024(令和6)年度においてエネルギー需給に関して講じた施策の状況
 第1章 安定的な資源確保のための総合的な政策の推進
 第2章 徹底した省エネルギー社会の実現とスマートで柔軟な消費活動の実現
 第3章 地域と共生した再生可能エネルギーの最大限の導入
 第4章 原子力政策の展開
 第5章 燃料の効率的・安定的な利用のための環境の整備
 第6章 市場の垣根を外していく供給構造改革等の推進
 第7章 国内エネルギー供給網の強靱化
 第8章 カーボンニュートラル実現に向けた水素・アンモニアの導入拡大
 第9章 総合的なエネルギー国際協力の展開
 第10章 戦略的な技術開発の推進
 第11章 国民各層とのコミュニケーションとエネルギーに関する理解の深化

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エネルギーに関するトレンド

日本のエネルギー政策における最新のトレンドを知りたい方は、第1部に目を通すことをおすすめします。

第1部第2章の「GX・2050年カーボンニュートラルの実現に向けた日本の取組」では前提として、世界のエネルギーを取り巻く環境が2022年2月のロシアによるウクライナ侵略、中東情勢の緊迫化、トランプ政権のパリ協定からの脱退表明などで大きく変化していることに触れています。

DX・GXの進展を踏まえたエネルギー・産業政策の一例として、電力と通信の連携(ワット・ビット連携)や、カーボンニュートラル実現に向けた次世代エネルギーの革新技術なども紹介。日本発の軽くて曲がる太陽電池である「ペロブスカイト太陽電池」の現状や、日本の地熱発電を最大限活用するための「次世代型地熱発電」の開発状況などが記されています。 また、第3章では日本だけでなく他の先進国における温室効果ガス(GHG)削減の進捗状況と今後の目標なども記載されています。


日本のエネルギー政策を理解するために

石炭がエネルギー源の中心だった時代の日本においては、エネルギーの自給率はほぼ100%と高い数値でしたが、その後に石油が中心となると、その多くを輸入に依存するようになりました。さらに高度成長期とオイルショックを経験した日本では、石油に代わるエネルギー源として原子力が用いられてきました。そして東日本大震災にともなう福島第一原子力発電所の事故によりエネルギー政策は仕切り直し。現在では環境負荷の低いLNGなどの天然ガスによる発電や、再生可能エネルギーによる発電が増加し、原子力発電についてもそのあり方が見直されています。
第2部では、日本のエネルギー政策について、エネルギーの安定供給と経済成長、脱炭素の同時実現を目指す取り組みがキーワードごとにまとめられています。


日本の省エネ活動はどのように進められてきたのか

日本では1970年代のオイルショック以来、いかに効率的にエネルギーを使うかにこだわり、省エネの技術を磨いてきました。

第2部の第2章「徹底した省エネルギー社会の実現とスマートで柔軟な消費活動の実現」では、最新の省エネの取り組みが紹介されています。製造業、鉱業、建設業などを指す産業部門では、生産に占めるエネルギー比率が多いため、省エネによる金銭的メリットも高い傾向にあり、これまで順調に省エネが進んできました。そこで政府では業務・家庭部門に焦点を当て、さまざまな施策を用意しています。
たとえば自動車や家電製品などのエネルギー消費機器や、断熱材や複層ガラス、サッシなどの建材の高効率化・高性能化を進めるため、省エネ効果の高いものを「トップランナー機器」として認定する「トップランナー制度」を活用。省エネ機器への買い替えを図る施策などが進められています。また、省エネを促進するため、夏季・冬季における省エネの呼びかけ、家庭や企業で実践できる効果的な省エネ行動をまとめた「省エネメニュー」の作成・周知も行っています。
家庭部門での実際の省エネに役立つ情報は以下も参考にしてください。

経済産業省・資源エネルギー庁:省エネポータルサイト


原子力活用の背景と現状

ロシアによるウクライナ侵略、中東情勢の緊迫化などを受け、エネルギー安全保障への対応は急務となっています。加えて、DXの進展やAIの普及により将来にわたって電力需要増加が見込まれる中で、原子力発電の重要性はさらに高まっています。

第2部の第4章「原子力政策の展開」では、原子力活用において最も最優先されるべき安全性向上と信頼確保に向けた取り組みや、使用済燃料を再処理し、回収されるプルトニウム等を有効利用するバックエンドプロセスの取り組みなどが紹介されています。現在、原子力発電については原子力規制委員会が新規制基準に適合すると認めた場合のみ、地元の理解を得ながら再稼働を進める方針です。2024年11月には、東北電力女川原子力発電所2号機が、東日本の原子力発電所として東日本大震災後初めて再稼働し、現在は全国で計14基が再稼働(2025年3月時点)しています。また2025年7月には関西電力より、東日本大震災後初となる原子力発電所の建設が発表されるなど、その活用が各所で動き出しています。


おわりに

第7次エネルギー基本計画によれば、2040年度のエネルギー需給見通しとして、再生可能エネルギーを4~5割程度、原子力を2割程度、両方を合わせて最大で7割まで増やし、温室効果ガスの排出量を13年度比で73%削減することが目標に掲げられています。しかしエネルギーの専門家によれば目標の達成は今のところ厳しいという意見が多く見られます。

そうした状況ではありますが、エネルギー政策を進めるに当たって重要なのはこれまでと変わらず「S+3E」です。安全性の確保(Safety)が大前提であり、そのうえでエネルギーの安定供給(Energy Security)および経済効率性の向上(Economic Efficiency)と、環境への適合(Environment)を図っていくことが基本です。 私たちの暮らしに大いに関係するエネルギー問題。資源エネルギー庁のサイトには「エネルギー白書2025」の要点をまとめた概要版も掲載されています。興味を持った方は、まずはこちらをご覧いただき、その全体像を把握すると、理解が深まるかもしれません。

経済産業省・資源エネルギー庁 エネルギー白書2025
▶概要版はこちら

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