特集/「改正GX推進法」成立――今さら聞けないGXの概要と改正のポイント

2025年5月、国内のCO2排出量取引などに関するエネルギー施策を定めた「GX推進法」の改正法が成立しました。2050年カーボンニュートラルの実現に向けて「第7次エネルギー基本計画」と一体的に進められているGX。今回は、そもそも「GXとは」の振り返りとともに、改正のポイントや関連用語についても見ていきます。
GXとは
GXはGreen Transformation(グリーン・トランスフォーメーション)を略した言葉。「X」は英語の「Trans」を略する際に使われる表現です。
わたしたちの生活に必要なエネルギーは、今のところその多くが石油や石炭などの化石燃料によって生み出されています。一方で化石燃料は利用の際にCO2を排出するので、地球温暖化の大きな原因のひとつといわれています。
GXとは化石燃料に頼らず、太陽光や風力などの再生可能エネルギーや、水素エネルギーといった自然環境に負荷の少ないエネルギーの活用を推進して、CO2をはじめとする温室効果ガスの排出量を減らしていくための活動。またあわせて、その活動を環境保全の側面だけで終わらせるのではなく、経済成長の機会にするため社会全体の仕組みを変換していこうという動きをいいます。

エネルギーの安定供給・経済成長・排出削減の同時実現を目指す
引用:経済産業省 GX(グリーン・トランスフォーメーション)
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GX推進法の概要
2050年カーボンニュートラルの実現と経済成長の両立をめざし、2023年6月にGX推進法(正式名称:脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律)が施行されました。政府ではこれに先立ちGXの実現に向けて必要な施策を協議するための「GX実行会議」を複数回にわたり開催。「GX実現に向けた基本方針」を策定し、10年間にわたるGX実現のロードマップを公開しました。GX推進法はこの基本方針に基づき、制度基盤の整備に必要な下記5つの項目を中心に定められたものです。
GX推進法の概要(2023年施行) 1.GX推進戦略の策定・実行 2.GX経済移行債の発行 3.成長志向型カーボンプライシングの導入 4.GX推進機構の設立 5.進捗評価と必要な見直し |
改正のポイント
前置きが長くなりましたが、あらためて今年5月にGX推進法の改正法が成立し、来年(2026年)4月1日からの施行が決まりました。改正法では、さらなるGXの推進を実現するため、さまざまな見直しが進められましたが、大きな点としては、CO2排出量が年間10万トン以上の企業に対して、排出量取引制度への参加が義務づけられたことが挙げられます。大手鉄鋼や運輸業、電力会社など300~400社がこれに該当し、国内のCO2排出量の6割程度がカバーされることになります。
また今回成立した改正法はGX推進法とあわせて、「資源有効利用促進法(正式名称:資源の有効な利用の促進に関する法律の一部を改正する法律)」の改正も含んでいます。資源有効利用促進法とはリサイクルなどの促進を通して、循環型経済システムの構築をめざす法律。この点も含め、下記に改正のポイントを見ていきます。
<GX推進法の改正ポイント>
①排出量取引制度(GX-ETS)
2026年度より、CO2の直接排出量が一定規模(10万トン)以上の事業者に対して、排出量取引制度に参加することが義務付けられました。制度の対象となる事業者には、企業ごとのCO2排出量に「枠(上限)」を設けて、その排出枠の過不足を企業間で取り引き。割り当てられた枠よりも実際の排出量が超過した場合は排出枠の調達が必要となります。また逆に排出削減が進み余剰が生まれた事業者については枠の売却や繰越しも可能です。
対象事業者は、排出枠の割り当てがされる年度の翌年度に排出量実績や中長期の排出削減目標、その達成のための取り組み内容の策定・提出を行います。一方で移行期にある事業者や業種ごとの特性などの状況は考慮され、排出枠の無償割り当ても実施される予定です。
②化石燃料賦課金
2028年度からの導入が予定されている化石燃料賦課金の支払期限・滞納処分・国内で使用しない燃料への減免などの事項が整備されます。化石燃料賦課金とはCO2をはじめとする温室効果ガス排出に対して金銭的なコストを課す制度で、化石燃料の採取・輸入事業者が対象となるものです。
③GX分野への財政支援
GX推進に向けた先行投資を支援するため、政府が発行する「脱炭素成長型経済構造移行債」で得た収入をGX分野に係る税額控除による減収の補填に利用します。
<資源有効利用促進法の改正ポイント>
①再生資源の利用義務化
自動車・家電など再生資源の利用義務を課す製品を指定。その製品の生産量が一定規模以上の事業者は、再生資源の利用に関する計画の提出・報告が義務となります。
②環境配慮設計の促進
優れた環境配慮設計(解体・分別しやすい設計、長寿命化につながる設計など)の認定制度を創設します。
③GXに必要な原材料の再資源化の促進
事業者による回収・再資源化が義務されている製品について、高い回収目標などを掲げて認定を受けた事業者に対して、「業許可不要」となる特例措置を導入します。
④サーキュラーエコノミー(CE)コマースの促進
リユース、リペア、レンタル、シェアリングなどのCEコマース事業者(循環型経済を実現するビジネス)の事業者に対し、資源の有効利用などを踏まえ、満たすべき基準を設定します。
GXの関連用語―GXリーグ、GX2040ビジョン
おわりに、GXの取り組みを理解するうえで役立つ関連用語を紹介します。
GXリーグ
経済産業省ではGXに積極的に取り組み、持続可能な成長をめざす企業が官公庁や教育機関などと協働する場として「GXリーグ」を設立しました。同リーグでは、参画企業が自ら設定した排出削減目標の達成に向け排出量取引を実施するとともに、GX製品の市場投入やサプライチェーンも含めた排出削減を促進するためのルールづくりに取り組んでいます。
2025年5月時点で700社を超える企業が参加。枠組みの拡大に向け参加要件の見直しも進められています。
GX2040ビジョン
2023年のGX推進法施行後に策定された「GX推進戦略」の改訂版となる施策で2025年2月に閣議決定されました。2050年カーボンニュートラルのゴールに向けて、すでに動き始めているGXですが、その中間点となる2040年に向けて中長期的な方向性を共有するため、またさらに大きく飛躍していくためのビジョンがまとめられています。
今回の改正の大きなポイントとなる排出量取引制度への参加は「排出量10万トン以上」となる特定規模の事業者に限られています。しかし一方で、政府では「10万トン未満」の事業者に対しても削減目標の設定をGX支援の要件とするなど、産業界全体でのGX推進を図る考えです。施行まで1年弱となった「改正GX推進法」。めざすゴールに向けて、今後の動向にも注目していきましょう。

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