「代替食品」について知ることで食を取り巻く環境・人権・持続可能性の課題が見えてくる
2023年頃からじわりと高騰しはじめたカカオ価格。上昇は止まらず、この2年で約3倍に跳ね上がり、カカオショックと呼ばれる事態になっています。原因は異常気象やカカオの木の病害、生産コストの上昇などさまざまな事情が絡み合っていますが、今後も高騰が続くことが見込まれることから、製菓業界などでは対応に追われています。
そんななか、注目を集めているのが「代替チョコ」の存在。カカオを原材料とせず、シアバターや植物油、ゴボウ、豆といった食材からつくる「チョコレート風味」のお菓子が食品メーカーなどから相次いで発表されています。
このように「味や見た目を似せて別の原材料でつくる加工食品」のことを、「代替食品」と呼びます。すでに浸透している食品を例に挙げると、蟹に似せた「カニカマ」や、バターに似せた「マーガリン」があります。かつては「日常的に食べるには少し高くて手が届かない」ものを安価に、というニーズから生まれましたが、近年では代替チョコの例をとってもわかるように、「原材料が希少となってしまったため代わりになるものでつくりたい」という事情もあります。
今回のコラムでは、代替食品が広がる背景にあるさまざまな要因をご紹介します。
【目次】
・代替食品が広がっている主な理由
・代替食品の生産で環境負荷が減る?
・環境問題、人権問題、SDGs…さまざまな課題が見えてくる「カカオショック」
・まとめ
代替食品が広がっている主な理由

ここ数年でさまざまな代替食品が開発され、ニュースで聞いたり店頭で見かけたりすることが多くなってきましたね。拡大の背景には大きく分けて以下のような理由があります。
1.高価な食材を安価に提供するため
導入部分でお伝えしたように、カニカマやマーガリンの開発背景にあたるのがこちら。消費生活に直結するため、なじみ深いものが多いです。今ではお馴染みの発泡酒もビールの代替食品(飲料)ですが、これも価格面を理由に開発されたもの。税率の高さや低価格競争といった背景から、メーカー各社がビールより麦芽の配合量などを減らしつつも風味をビールに似せて開発しました。
【例】カニカマ、マーガリン、発泡酒など
2.アレルギーやヴィーガン、宗教上の理由など
多様性に配慮するために開発が進められているケースもあります。
食品アレルギーをもつ人は特定の食物を食べることができません。イスラム教では豚肉、ヒンドゥー教では牛肉といったように、特定の食物を食べることを禁じる宗教もあります。また、菜食主義者(ベジタリアンやヴィーガン)も増えています。このような人々も食べられる食品の選択肢として代替食品の開発が進められているのです。
アレルギーに関しては、特に小麦粉や卵、乳製品に対するアレルギーがあると食べられるものの選択肢が狭まったり、外での食事に注意しなければならなかったりと苦労している方も多いのではないでしょうか。アレルギー反応が出る材料が使われていない食品なら、ほかの人と同じものが食べられて安全と安心につながりますね。
ちなみに仏教の「精進料理」も代替食品といえます。宗教上の理由(不殺生)により肉や魚の使用を控え、豆腐や麩、がんもどきなどで食感を似せたりして工夫が凝らされています。
【例】米粉パン、代替卵など
3.健康上の理由
健康や美容、ダイエットのために代替食品を選ぶ人もいます。代替食品は動物性食品を植物性食品でつくることが多いため、脂肪分の摂取を抑えられる、美容に効果的な栄養素を摂取することができるといったメリットがあります。
ただ、植物性食品だけでは摂取しにくい栄養素があるのも確か。サプリメントで補うなど、栄養バランスを考える必要があります。
【例】ソイミルク、オーツミルク、アーモンドミルクなど
4.食糧の生産性向上ため
気候変動の影響により、従来の地域や手法でこれまでと同じ質・量の生産や収穫が難しくなっている食糧もあります。農業における栽培可能地域や魚の生息域が少しずつ北に移動していて、これまで獲れていたものが獲れなくなっているというニュースもあります。世界人口の増加により食糧需要も増加傾向ですが、持続可能で安定した供給のため、別の材料で食糧生産をする動きが広がっているのです。まだ実用段階にはいたっていませんが、細胞を培養して肉をつくる技術も研究が進められています。
【例】ソイミート、代替魚など
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代替食品の生産で環境負荷が減る?

特に畜産業においては、代替食品の拡大により環境負荷を軽減できるといわれています。畜産の過程では多くの温室効果ガスが発生します。飼料となる作物の生産や輸送時にCO2が発生するほか、家畜のゲップに含まれるメタンはCO2の約28倍の温室効果があります。なお、このメタンは畜産由来の温室効果ガスの半分以上を占め、CO2換算で年間約866万t-CO2となっています。
また人口増加にともない農地を拡大しようとすると、森林を伐採することに。水資源についても、飼料の生産などで大量に必要で枯渇を招くことがあります。
肉や乳製品の代替食品に対しては、これらを解決するものとして期待が寄せられています。
環境問題、人権問題、SDGs…さまざまな課題が見えてくる「カカオショック」
このように、さまざまな課題解決の手段として期待される代替食品。ただ、冒頭で例に挙げたカカオショックに関しては、代替食品への切り替えだけが解決方法ではありません。カカオ価格の高騰の要因は、主な産地である西アフリカにおける異常気象や病害の発生による収穫量の減少のほか、生産国の財政状況の悪化にもあるとされています。例えば名産地・ガーナではカカオ農家を政府が支援していますが、2022年にデフォルト(債務不履行)に陥ったことによりサポートができなくなってしまいました。病害についての情報伝達が遅れたことが、被害が拡大してしまった一因であるとも考えられています。価格も政府がコントロールしているものの、仲介業者などの介入により生産者に充分な利益が還元されているとは言い難い構造です。収入が安定しないため、新しいカカオの苗を購入できず、老木で生産を続けると収穫量も減り病気にもかかりやすくなる…というサイクルに陥っている農家もいて、自分の子どもに継がせたくないと廃業を選ぶ人もいます。また貧困が理由で児童労働が発生するなど、人権問題も絡んでいます。
根深い問題でありなかなか解決は難しいですが、今後もおいしいチョコレートが食べられる世界であるために、カカオ生産者を支援するフェアトレード商品を選んで購入するなど、消費者の立場からも行動が可能です。また、代替食品を選ぶことは一見すると直接的な支援には見えないかもしれませんが、カカオへの過度な依存が減少することで市場価格が安定、適正な買い取り価格になっていく側面も考えられます。生産者にとっても消費者にとっても、チョコレートの食文化が持続可能であるよういろいろな選択肢が考えられるといいですね。
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まとめ
代替食品のメリットなどをご紹介してきました。環境だけでなく、健康や多様性の面でも多くの魅力があることがわかりました。ただ一方で、まだ認知が低い現状もあるほか、元々の食生活にも愛着や文化・歴史があるため、完全に切り替わるということはないでしょう。おいしさ、安全性、安定性。環境配慮、人権配慮、持続可能性。何を重視するかによって求めるものは変わってきますが、より多くの人がより幸せになる選択ができるといいですね。そのうちの1つとして、代替食品という選択肢を覚えておくとよいでしょう。
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