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世界観光の日(9月27日)に考える「環境にやさしい日焼け止め」



 9月27日は「世界観光の日」。国際社会における観光の社会的、文化的、政治的、そして経済的な重要性を啓発するために1979年に制定されました。旅先では観光を楽しむだけではなく、その土地の文化に触れたり人と交流したりすることで異なる価値観に触れることができます。最近では国内外の観光客の消費額において「モノ消費」(物品の購買)だけでなく「コト消費」(体験への出費)の金額が増加してきている傾向もあり、「知る」ことの価値がより見直されているようです。
 さて、旅行の必需品といえば「スマートフォン」「充電器」のほか、お土産が増えたときのための「サブバッグ」や長距離移動を快適に過ごすための「ネックピロー」など人によってさまざまありますが、「日焼け止め」が思い浮かぶ方も多いのでは。普段は会社や学校にいるような方も日中に屋外に出て観光する旅行中は、いつも以上に紫外線対策に気を使うのではないでしょうか。
今回は「環境にやさしい日焼け止め」について、ひいては「持続可能な観光」について考えていきましょう。



日焼け止めが環境に与える影響とは


 日中に活動するときはもちろん、海外(特に赤道付近の国)では日本よりも紫外線が強力なため、皮膚の保護という観点からも日焼け止めを塗ることは重要です。紫外線の強さを表す指数(UVインデックス)は日本・本州の真夏が10(非常に強い)なのに対し、沖縄は12、シンガーポールは13(極端に強い)と、赤道に近づくにつれ高くなっていきます。日本では紫外線が強い季節は春から夏にかけてのみですが、赤道付近の国々やオーストラリアなどでは1年を通して強いようです。

世界の紫外線分布図。赤道付近と標高が高いところが強く、極地方は弱い。
出典: 気象庁 オゾン層観測報告:2008

 「日焼け止め」は紫外線を吸収するか反射するかで2種類存在し、日本で主流なのは紫外線を吸収するタイプ。このタイプの製品に含まれる「オキシベンゾン」「オクチノキサート」という成分が紫外線を吸収し、皮膚の内部に紫外線が浸入するのを防止。紫外線を科学的にカットします。どちらの成分も厚生労働省が化粧品などへの使用を認めていますが、近年、これらの成分が海洋汚染につながっているとの指摘があります。
 特に疑いが強いのはサンゴ礁への影響。ある実験では、ごく微量の日焼け止め液を入れた海水でサンゴを飼育したところ、4日後に白化する現象がみられました。また、サンゴの幼生の半数がオキシベンゾン濃度1/7,000の海水で24時間以内に死亡、1/150,000の濃度でも変形を引き起こしたとの実験報告も上がっています。これらの成分が「環境ホルモン」として作用してしまい、DNAにダメージを与えるためと考えられています。なおオキシベンゾンには「光毒性」という性質もあり、明るいところでより毒性が強くなるとされています。
※環境ホルモン: 生体内に入った場合、本来体内で営まれている正常なホルモン作用に影響をもたらす化学物質をいう。正式名称は「内分泌かく乱化学物質」。生殖機能の異常、アレルギーなど免疫疾患を引き起こす可能性があるとされている。

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日焼け止めの法規制が進んでいる


 サンゴ礁の環境被害の原因はほかに温暖化や海洋汚染などがありますが、上記の理由から日焼け止めによる影響も大きな問題とみられています。このため海外では特定の成分を含む日焼け止めの販売が禁止されるなど、規制の動きが広がっています。現在規制がある場所はいずれもビーチやウォーターサイドなどバカンス目的で訪れる場所。日焼け止めを使いたくなりますが、訪問時は各国のルールに従うようにしましょう。

・ハワイ(アメリカ)
2021年から条例で「オキシベンゾン」と「オクチノキサート」を含む日焼け止めの販売、提供、流通を禁止。観光客の持ち込みは規制対象外であるものの、州政府は観光客にも使用しないよう呼びかけている。
・パラオ
2020年1月から、「オキシベンゾン」と「オクチノキサート」をはじめとする10種類の化学物質を含む日焼け止め、スキンケア製品の販売と使用を禁止。入国時に持ち込んだ場合は没収となるため注意が必要。
・フロリダ・キーウエスト(アメリカ)
2021年から条例で「オキシベンゾン」と「オクチノキサート」を含む日焼け止めの販売を禁止。
・メキシコ
法規制はないものの、観光地で市販の日焼け止めを使用しないよう呼びかけている。
なお観光スポットであるセノーテでは、水質保護の観点から2024年5月から環境配慮型であっても日焼け止めの持ち込みは禁止となっている。


 日本では特に規制がないため、市販の日焼け止めや化粧下地には「オキシベンゾン」と「オクチノキサート」が含まれるものが多いのが現状ですが、海外、特にビーチリゾートを抱えるエリアではこのような動きが広がっており、メーカーも順次リニューアルなどで対応を進めているようです。

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環境にやさしい日焼け止めとは?


 ここまで見ていると、日焼け止めそのものが環境に悪いものだと思ってしまいがちですが、そうではありません。「紫外線吸収剤不使用」などの表示がある製品を選択肢に入れてみましょう。
 紫外線吸収剤を使っていない日焼け止めは、「日焼け止めが環境に与える影響とは」の項目で触れた紫外線を反射するタイプのことを指します。こちらのタイプの日焼け止めには「紫外線散乱剤」が使用されています。成分としては酸化亜鉛、酸化チタンなど。環境にはもちろん、肌にもやさしい天然鉱物(ミネラル)です。細かい粒子が紫外線を反射・散乱させ、物理的にカットする仕組みです。
 紫外線散乱剤を使用した日焼け止めは肌表面が濡れている状態で塗ると白浮きが目立ちます。また塗布後15分ほど置くと、肌になじみ水にも落ちにくくなります。海で使用する際には前もって塗っておくのがおすすめです。紫外線吸収剤を使用したものよりも日焼け止め効果が弱いといわれてきましたが、研究開発が進み高いSPF値(UVB(紫外線B波)に対する指標。日焼けが始まるのをどれだけ遅らせるのか示す)が出せるようになってきていますので、効果の面でも安心です。
 店頭で選ぶ際は、「紫外線吸収剤不使用」のほか、「リーフセーフ」「コーラルフレンドリー」といった表示を目印にしてみましょう。「ノンケミカル」も同様です。

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環境保護、そして持続可能な観光にもつながる


 新型コロナウイルス感染症の流行も過ぎ去り、すっかり賑わいを取り戻した観光市場。日本でも訪日客が過去最高を記録するなど、人の行き来が従来以上に増えています。よろこばしい点が多い一方、オーバーツーリズムや環境への悪影響といった負の側面があることも否めません。観光客が押し寄せることで自然環境や文化的遺産に被害が及んだ事例は世界各地で発生しています。
 「世界観光の日」を定める世界観光機関は、2017年を持続可能な観光国際年と宣言しています。旅行者の立場としても観光が経済的にだけでなく文化的、社会的にも意義あるものとして続いていくよう、責任ある行動をしたいものです。
 たかが日焼け止め、されど日焼け止め。使う製品ひとつで環境保護に貢献できます。今回は世界観光の日をきっかけに「環境にやさしい日焼け止め」を紹介し、サンゴ礁への影響という視点から見てきましたが、日焼け止めはマリンレジャーの際に海に直接流れ出すだけでなく、自宅で顔や身体を洗い流した水も最終的には海や川へ流れ込みます。旅行という特別なとき以外でも、普段から環境にやさしい製品を選べるとよいですね。

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参考サイト:
●気象庁(防災情報>紫外線情報) https://www.data.jma.go.jp/env/uvindex/index.html
●環境省 紫外線環境保健マニュアル https://www.env.go.jp/chemi/uv/uv_manual.html
●大正製薬 製品情報サイト https://brand.taisho.co.jp/coppertone/environment/column1/





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