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カワセミ都市トーキョー 「幻の鳥」はなぜ高級住宅街で暮らすのか

人と多様な生物種が共に暮らすヒント

 スズメより少しだけ大きい全長約18cmの小鳥。水辺に生息しコバルトブルーとオレンジの彩り鮮やかな体から空飛ぶ宝石ともいわれるカワセミ。自然豊かな清流にしかいないというイメージを持たれているが、今や大都市・東京を流れる川のあちこちで暮らしているという。高度経済成長期の公害で徹底的に汚染された場所になぜ戻ってきたのか。その謎解きを交えつつ美しい小鳥の生態が語られる。
 著者がカワセミを発見したのは2021年5月のコロナ禍のさなか。行動制限の憂さ晴らしに自宅近くの都市河川を自転車で散策中に偶然出会い「一目惚れ」し「カワセミストーカー」になったという。
 その後の2年半にわたる観察日記が半分近くのページを占める。巣穴探し、営巣、繁殖、子育て、巣立ちといった営みがユーモラスに記される。つがいは父ちゃん・母ちゃん、ひなは兄・弟などと擬人化し、セリフもあり、楽しい。
 餌の多くが小さなエビなど外来生物だとわかる。過去の汚染で在来種がほぼ絶滅した都市河川。やがて水質改善が進んだ環境で外来生物が新たな住人になったと推測する。人の手が入っても自然は新たな野生をつくる。
 地球上のあらゆる場所に人の手が入っている現状。「ならば、それを前提に、なるべく多くの生き物と人間とがいっしょに暮らせる空間を、工夫をこらして保全する、ときには積極的に手入れをする」(276ページ)。そのいい事例が都市で生きるカワセミに見出せるのでは、と説いている。



平凡社 1,210円(税込)

柳瀬博一 著
1964年、静岡県浜松市生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、日経マグロウヒル社(現・日経BP 社)に入社。「日経ビジネス」記者、単行本編集、「日経ビジネスオンライン」プロデューサーを務める。2018年より東京工業大学リベラルアーツ研究教育院教授。『国道16号線──「日本」を創った道』(新潮社)で手島精一記念研究賞を受賞。他の著書に『親父の納棺』(幻冬舎)、『インターネットが普及したら、ぼくたちが原始人に戻っちゃったわけ』(小林弘人共著、晶文社)、『「奇跡の自然」の守りかた』(岸由二共著、ちくまプリマ―新書)、『混ぜる教育』(崎谷実穂共著、日経BP 社)がある。


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