特集/電力融通とは?――夏の電力不足を乗り切る電力融通の仕組み
2024年夏、各地で40度を超える気温が記録されるなど、厳しい暑さが続いています。この猛暑を受け、冷房需要などが伸長。今夏の需要電力も最大記録を更新し、7月29日には東京で5697万㎾となり、前年の数値を上回りました。
こうした状況のなかで、各電力会社がエリアをまたいで足りない電力を補い合い、電力不足を乗り切る「電力融通」が行われています。日本経済新聞の記事によると、今年に入ってからの電力融通回数は7月の時点で10回を超えており、過去3番目に多い水準に達しています。今回は、電力融通の仕組みや種類、その背景について見ていきたいと思います。
【目次】
・電力融通とは
・さまざまな種類の電力融通が実施されている
・安定的な電力融通を可能にする「電力の広域的な運用」
電力融通とは
電力融通とは、電力が不足しているエリアと、余っているエリアが互いに補い合い、電力需給のバランスを保つことをいいます。ヨーロッパなどでは国家間での電力融通も行われていますが、島国である日本では、現状では国内のやり取りのみ。大きく「全国融通」と「2社間融通」の2種類に分かれます。
ニュースなどでしばしば耳にするのが全国融通。これは、電力広域的運営推進機関(広域機関)が調整役となり、電気の需給状況が悪化、または悪化するおそれがあるときに、事業者間で電力のやり取りを行うものです。北海道から九州まで送電網(地域間連系線)でつながるエリアではエリアをまたいだ全国的な融通が可能ですが、その量は連系線の容量に限られます。
全国融通にもいくつかの種類があり、ひとつは夏の気温上昇など季節的な需要量の変化に対応するためのもの。自然災害や発電所の停止などにより突発的な電力不足が起こったときに行うもの。また、あるエリアの太陽光発電の供給量が需要量を超えそうな場合に、発電を止めるのではなく、超過分を他エリアへ送電することで需給バランスを保つことも電力融通のひとつです。
電気はその性質上貯めておくことが難しく、使う量とつくる量を常に同じにしておく「同時同量」が原則です。そのため、それぞれの電力会社では需要を予測して発電量を調整し、需給バランスを保っています。
そうしたなかで、天候や気温に発電量を左右される太陽光をはじめとする再生可能エネルギーは発電量の予測が難しく、時には発電量を抑える「出力制御」などの対応が取られ、その発電能力を最大限活用できていないこともあるのです。再エネへの期待が高まるなかで、電力融通などの方法で発電設備をより効率的に活用する必要性が高まっています。
【電力融通は大きくわけて「全国融通」と「2社間融通」の2種類】 ①全国融通 夏場・冬場の天候急変など自然現象、発電所の故障などに対応した応援的融通。 ②2社間融通 隣接する電力会社間で、発送電設備の効率運用などを目的とする融通。 |
さまざまな種類の電力融通が実施されている
ここであらためて、広域機関の指示によりエリアをこえて電力融通が実施された、近年の事例を振り返ってみましょう。
2024年7月8日
東京エリアにおいて想定外の気温上昇と火力発電所の設備故障が重なり電力の予備率が低下。50Hz(東日本)と60Hz(西日本)の連系地点となる周波数変換所(F.C.)をこえて、中部電力管内より受電する。
2024年6月1日
関西エリアにおいて、太陽光発電の出力制御を行うも、供給が需要を上回る見通しとなり、中部電力管内および中国電力管内へ送電する。
2022年6月27日~6月30日
東京エリアを中心に、異例の暑さによる電力需要増大。同時に夏の高需要期を前にした発電所の計画的な補修点検が重なり、需給がひっ迫。東北電力管内および中部電力管内より受電する。
2018年9月7日~21日にかけて
北海道胆振東部地震において大規模停電。北海道電力管内へ東北エリアおよび東京エリアより最大60万kWを送電する。
◆◆電力融通の調整役・電力広域的運営推進機関(広域機関)とは◆◆ 広域機関は、経済産業省の認可法人として2015年に設立しました。東日本大震災直後の電力不足を契機に、電力の広域的な活用に必要な送配電網の整備を進めるとともに、全国規模での需給調整機能の強化を担う機関として活動。全国の電力会社を取りまとめ、横断的な電力ネットワークの整備を行っています。また日本のすべての電気事業者は広域機関の会員となることが義務付けられています。広域機関では、需給ひっ迫が予想される場合、会員の事業者に対して発電設備の焚き増しを依頼するなど、需給状況改善に向けた対策を講じています。また需給ひっ迫時などには、電気事業法に基づく電力融通の「指示」も行います。 【表】広域機関による一般送配電事業者に対する指示の年間実績 出典:電力広域的運営推進機関 電力需給及び電力系統に関する概況-2022年度の実績- |
安定的な電力融通を可能にする「電力の広域的な運用」
日本国内の電力供給エリアは北海道から沖縄まで10のエリアに分かれており、そのうち北海道から九州までの9つのエリアは送電網(地域間連系線)で1つにつながっています。過去のコラムでも送電網の整備計画について触れましたが、東日本大震災の教訓をふまえ、安定的な電力融通を可能とするためにもエリアをまたぐ地域間連系線の強化が進められています。
送電網整備計画の詳しい解説はこちら
送電網整備計画――広域連系系統のマスタープランとは
https://econews.jp/column/8926/
(サステナブルノート 2023年6月7日)
また電力不足時の融通目安となる予備率についても、エリア単位での管理ではなく、連系線でつながる9エリアが一体となって管理する「広域予備率」の仕組みが構築されています。
地域間連系線を最大限活用できる下記図のような広域ブロック単位で広域予備率を導き出し、2024年度以降は、広域機関より毎日公表されることとなりました。
今年に入り、国内では第7次エネルギー基本計画の閣議決定に向けさまざまな議論が進められています。AI(人工知能)の普及やデータセンターの市場規模拡大により電力需要増も見込まれるなか、7月には政府による送電網への投資支援策の検討が新たに始まりました。
わたしたちの普段の生活を考えても、温暖化による想定外の気温上昇、台風・地震などによる予期せぬ災害、これらはいつ身近に起きるかもしれません。もしものときの電力融通、あらためて考えてみてはいかがでしょうか。
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