• 中小企業のSDGs
  • 企業の事業内容に沿って、どのようなSDGsの目標達成が図れるのかを解説していく

【第11回】水産加工業 環境に与える影響が世界一低いマグロ屋を目指す

企業の事業内容に沿ってSDGsの目標達成を考える本コーナー。今回紹介するのは水産加工販売業。生産性を向上させる取り組みが、結果としてSDGsの目標(ゴール)に結びついている活動だ。

 

 1968年創立の株式会社三崎恵水産(神奈川県三浦市)は、マグロを加工して販売する水産加工会社。扱うのは外洋で捕獲後、鮮度保持のために急速冷凍され三浦三崎港に運ばれた高品質のマグロだ。2011年の東日本大震災で計画停電が行われた際、この業務がいかにエネルギーに依存しているのかを実感して以来、持続可能な未来に向け、自分たちにできることを1つずつ考え、実行している。

 代表取締役の石橋匡光さんは「環境問題に取り組むといっても大上段に構えるのではなく、どちらかというとロスをなくし、事業全般の生産性・効率性を高めることが結果としてサステナブルな環境づくりと地続きになっています。環境に良いことはお財布にもやさしいのだと実感していますね」と話す。

 

これまで廃棄していた部分も活用して商品化することでフードロス削減につなげている

 

 

 ゴール12「つくる責任、つかう責任」の観点から、栄養がありながらこれまで処分されてきたマグロの血合いや骨をスープのだしやペットフードに使い、さらに残渣も有機肥料に活用するなど、フードロスの削減に取り組んでいる。 「血合いや骨を活用するのも、それがコスト低減につながるためです。また、当社の大型冷凍庫は電気をたくさん使うのでゴール7の“エネルギーをみんなにそしてクリーンに”も重視しています。そのために電気の“見える化”を積極的に活用し、同じ仕事でもどのように使えば省エネになるのかを考えています」。さらに2022年10月には工場の屋根に200kWの太陽光発電設備を導入した。これにより電力由来のCO2排出量とコストを減らしている。

 

三崎恵水産の加工現場。バンドソーを使う作業は危険と隣り合わせ。石橋さんは「ロボット化できれば良いなと思っています」と話してくれた

 

 そのほかにも受け入れ側ができることとして各種認証を受けたマグロの仕入れを増やすほか、輸送に用いる発泡スチロールの使用を減らすためにメーカーと組んで代替品の開発に取り組んでいる。これらはゴール14「海の豊かさを守る」ことにつながる。

 さらに将来にわたって水産業の担い手を増やしたいとの思いから、工場の定期的な公開や小中学校の見学受け入れおよび出張授業なども実施。こうした活動を通じ、歴史ある三崎の水産業を未来につなぎたいという石橋さんの思いは強い。

「水産業は環境問題への取り組み面でまだまだ遅れていると思います。しかし、地球温暖化はマグロの分布地や味にも変化を与えており、一刻の猶予もない課題になっています。当社が目指すのは環境に与える影響が世界一小さいマグロ屋です。これからも環境負荷の低減に努め、50年後も変わらずおいしいマグロをお届けしたいと考えています」(石橋さん)

 

 

こぼれ話

石橋社長は2022年3月に超低温冷凍庫をフロンガス冷媒から自然冷媒のものに入れ替えました。空気冷媒・省エネ型の超低温冷凍ユニットだそうです。その時のことが印象的でした。

「三浦市内の中学校でマグロの出張講義を行ったのですが、フロンガスの話をしたら、生徒さんはどなたもフロンガスのことを知りませんでした。私たちの世代はフロンガスを、地球温暖化を促す非常に厄介な気体だと認識していますが、中学生にとってフロンガスは既に解決済みの環境問題という扱いだったのです。驚いたと同時に焦りも感じました。これがきっかけとなり、冷凍庫の入れ替えを決断しました。大きな投資でしたが地元の金融機関にご支援いただき、その金融機関の第1号グリーンローン案件として融資をいただけました」  その他にも次々とサステナビリティに関する新しいアイデアを考え出し、実践する石橋社長。今後の同社もの取り組みに要注目です!

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