第7回 温暖化していなければ近年の猛暑・豪雨はなかった!?イベント・アトリビューションとは

「日本の気候変動2020」を読み解く:地球の温暖化現象について気象庁は最新の科学的知見をまとめ、気候変動に関する影響評価情報の基盤情報(エビデンス)として使えるよう、『日本の気候変動』を発行しています。最新の知見が盛り込まれた本書の内容を紹介します。

今回は本書のコラム「イベント・アトリビューション」についてご紹介します。2018年7月は記録的猛暑で熱中症による死者が初めて1,000人を超えました。また、2018年に起きた「平成30年7月豪雨」は、西日本を中心に広範な被害をもたらしました。しかし、これらの災害は地球温暖化現象がなければ発生していなかったか、これほどまで被害は拡大しなかったと本コラムには記されています。この結果に至った研究手法が「イベント・アトリビューション」です。どういうものなのか、詳しく見ていきましょう(以下“”部分は各所からの引用です)。

本書の【コラム2】イベント・アトリビューションは以下の書き出しから始まります。

・平成30年7月の日本の記録的高温は地球温暖化がなければ起こり得なかった。
・過去約40年間の日本域の約1℃の気温上昇が、平成30年7月豪雨の雨量を約6.7%底上げしていた。
本書22P

いきなり刺激的な書き出しですが、なぜそんなことがわかるのでしょう。それを明らかにしたのが「イベント・アトリビューション」という研究手法で、実際に発生した極端な気象現象に対して地球温暖化がどの程度影響を与えていたか定量的に示すために考案されました。

なお、イベント・アトリビューションに関する解説は、本研究を共同で実施した国立環境研究所のサイト(https://www.nies.go.jp/whatsnew/20190521-2/20190521-2.html)がわかりやすいため、少し長いですがこちらを引用します。

地球温暖化はもはや将来の問題ではなく、私達の生活にも影響が現れ始めています。(中略)しかし、異常気象について、温暖化の影響を科学的に証明することはこれまで困難でした。なぜなら、過去に数回しか経験したことのない異常気象は観測記録が少なく、また、大気が本来持っている「揺らぎ」が偶然重なった結果発生するため、一つ一つの事例について温暖化の影響のみを分離することは不可能であったからです。しかし、近年の計算機能力の飛躍的な発展により、発生する可能性のある偶然の揺らぎを、大量の気候シミュレーションによって網羅するという画期的な手法が誕生しました。気候モデルを用いて、温暖化した気候状態と温暖化しなかった気候状態それぞれにおいて、大量の計算結果を作り出して比較する手法を「イベント・アトリビューション」と呼びます。

引用元:国立環境研究所「平成30年7月の記録的な猛暑に地球温暖化が与えた影響と猛暑発生の将来見通し」より

つまり、イベント・アトリビューションとは温暖化している状態と温暖化していなかった状態の気温・海水温・二酸化炭素の状態といったデータをシミュレーションし、現状の結果と比べる研究方法です。ちなみにアトリビューションは「~のおかげと考える、~に起因する」という意味です。このため、イベント・アトリビューションは「大型台風などの出来事(イベント)の原因を探る」研究手法を意味します。
以下は、現在の温暖化が進む社会ではこうした猛暑の発生確率はどうなるのか、また、温暖化の影響がなかった場合はどうだったのかの研究結果です。

d4PDF※の100 メンバーの過去再現実験及び非温暖化実験を比較した結果、2018 年7月に統計開始以来1位となった日本上空1,500mの月平均気温の記録を超えるような猛暑の発生確率は、高気圧の勢力が強まりやすかった現実の条件下では19.9%であった。
非温暖化実験では、発生確率はほぼ0%と見積もられ、人間活動による地球温暖化がなければ2018年7月の記録的な猛暑は起こり得なかったことが示された。
※編集部注 d4PDF:database for Policy Decision making for Future climate changeの略で、「地球温暖化対策に資するアンサンブル気候予測データベース」を指す。全世界および日本周辺領域について、それぞれ60km、20kmメッシュの高解像度大気モデルを使用した高精度モデル実験のデータベースのこと。アンサンブルとは集団の意味。また、メンバーはこの場合実験例を指す。過去6000年分(日本周辺域は3000年分)、将来については、全球平均気温が産業革命以降 2℃ および 4℃ 上昇した未来の気候状態について、それぞれ3240年分と5400年分のモデル実験を行っている。これらを用いることにより、未来の気候状態と現在の気候状態との比較ができる。このデータベースは無料で公開されており、誰でも使用可能。
本書22P

前回のGCMでも紹介しましたが、温暖化の研究には地球全体の大気や海洋の大規模な流れをコンピュータで再現するシミュレーションが不可欠です。これを行うことで、温暖化がどのように地球に影響を与えているのかがはっきりします。そのため、文科省は地球温暖化対策に役立てるために、数々のシミュレーションを行い、アンサンブル気候予測データベースとして無料で提供しています。
このデータベースを用いて確認した結果、2018年7月の日本上空の気温や猛暑を超える気象条件の発生確率は19.9%となりました。そして、非温暖化実験ではほぼ0%だったため、「人間活動による地球温暖化がなければ2018年7月の記録的な猛暑は起こり得なかった」という結論が導かれています。

一方の豪雨についても見ていきましょう。

●気象庁気象研究所の地域気候モデル(NHRCM)に気象庁55年長期再解析データ1(JRA-55)から得られた現実的な境界条件を与えて現象を再現した後、2018年までの39年間の日本域の昇温量(0.96℃/39 年)を境界条件から差し引いた非温暖化実験を実施した。
●西日本陸上の豪雨期間を通した積算降水量は、気温上昇による水蒸気増加により約6.7%底上げされていたと見積もられた。
本書23P

シミュレーション結果は、温暖化にはこの時の雨量を6.7%ほど増加させる効果があったとしています。

2018年7月の熱中症による死者は初めて1,000人を超えました。しかし、この猛暑現象は、地球が温暖化していなければ起きていなかったと予想されるのです。
「平成30年7月豪雨」の死者数は263人、行方不明者は8人です。温暖化が起きていなければ、この死者数は減っていた可能性が高いのです。

地球温暖化はまさに今起きている危機だということがわかります。

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