Vol.2 都市型水害に備え 巨大地下トンネルの調節池/神田川・環状七号線地下調節池
台風や豪雨などの水害から家屋を守るため東京都内には河川の洪水を一時的に貯留する調節池が30ヵ所整備されている。うち「神田川・環状七号線地下調節池」は地下トンネル式として国内最大規模の貯留量がある。
神田川は、三鷹市にある井の頭池を水源に、杉並区、中野区、新宿区などを経て隅田川に注ぐ24.6キロメートルの一級河川。「中流域の杉並区や中野区では昭和50年代から都市化に伴う水害が多発しました。市街化の進展が土地本来の浸透機能を弱めたようです」(東京都第三建設事務所工事第二課課長の岡田理志さん)。対策として東京都は、川幅を広げる事業などと並行して調節池の整備を進めていった。
神田川・環状七号線地下調節池は、東京都の主要幹線道路の1つである環状七号線の地下34〜43メートルの位置にある。長さ4.5キロメートル、内径12.5メートルの貯水トンネルだ。洪水時には約54万立方メートル(25メートルプール1800杯分)を貯留する。
1997年の利用開始から現在までの約30年間で計47回取水が行われた。2019年10月の台風19号では約49万立方メートル、トンネル内に最大貯留量の約9割となる洪水を受け止めた。「建設前の1993年台風11号と2004年台風22号の総雨量はほぼ同じです。ですが浸水面積は85ヘクタールから4ヘクタールに減り、浸水家屋も3117戸から46戸と、被害の軽減に大きく役立っています」(岡田さん)。

巨大なトンネル内部。へりに立つ人影が小さく見える。
調節池には、ここで採用している「地下トンネル式」のほかにも、地上部を掘削した場所に洪水を貯留する「掘込式」と、地下に設置された箱型に洪水を貯留する「地下箱式」の2つの方法がある。神田川・環状七号線地下調節池の建設前、該当エリアではすでに土地利用が進んでいて掘込式や地下箱式をつくる場所が限られていた。そこで公共施設である環状七号線の地下を有効活用するトンネル式が採用されることになった。
神田川・環状七号線地下調節池には、本流である神田川とそこに合流する善福寺川および妙正寺川のそれぞれに洪水を取り入れる「取水施設」がある。その3ヵ所を統括管理するのが善福寺川取水施設で、3河川の中で増水が起こりやすい場所を遠隔監視している。普段は無人の施設だが、杉並区にレベル2大雨注意報が発令されると職員が24時間体制で洪水の状況を監視し、取水ゲートの開閉など流入量の調整を行う。そして洪水がおさまった後には再び各施設より貯留水が河川へ放流される。
現在進められているのが、より大きな貯留量を確保するための整備工事だ。ここまで見てきた「神田川・環状七号線地下調節池」と、練馬区にある「白子川地下調節池」を連結して総延長13.1キロメートルの「環状七号線地下広域調節池」をつくる。
2つの調節池をつなぐ石神井川区間(トンネル延長5.4キロメートル)が完成すれば合計貯留量は143万立方メートルになる。この量は、1時間に100ミリメートルの局地的で短時間の集中豪雨にも効果が発揮できると予想される規模だ。1時間50ミリメートルを超える降水量はゴーゴーと滝のように流れ、恐怖を感じる豪雨といわれるが、その倍の量にも対応する施設になる。
調節池は見学ツアーなども企画されている。実物の間近に立てば、そのスケールの大きさが実感できるだろう。

2つのトンネル調節池を連結する工事が進行中。
こぼれ話
今回は善福寺川取水施設にお邪魔して、地下の巨大トンネルを見学させていただきました。

(写真1)善福寺川取水施設。河川側面が取水ゲートになっている。

(写真2)施設の管理棟。洪水時には取水ゲートの開閉管理などを行う。
本文でご紹介したようにこちらは、神田川・環状七号線地下調節池の3ヵ所ある「取水施設」のひとつ。善福寺川沿いに建ち、増水時には河川から直接つながる取水ゲートが開き、洪水を地下に流し込みます。
施設のエレベーターに乗って、地下43mのトンネル入り口へ。そこから厚い水密扉を通って、トンネルの中へ入りました。とはいえそこはトンネル本管ではなく、導水連絡管。取水口から取り込んだ水は内径7mのドロップシャフトをらせん状に流れ、減勢池に落下します。そこから長さ約150mの導水連絡管を通って、トンネル本管に流れ込みます。

(写真3)トンネルの導水連絡管。この先で本管と合流する。

(写真4)4.5㎞の長さが続くトンネルの本管。
導水連絡管の大きさは内径64m、その大きさと迫力にびっくりしながら懐中電灯をお借りして真っ暗な中を歩いていくと本管に到着。本管はさらに大きく内径12.5m、そのトンネルが懐中電灯の光の届くそのずっと先まで続いている様子は本当に壮観でした。
そしてもっと驚いたのは、真っ暗なトンネルに生き物が生息していたこと。訪れた日は渇水期(11月から5月)だったので、トンネル本管には消防水利(災害時に活用するための水源)として約6万㎥が貯水されており、そこにドジョウやザリガニなど、取水とともに流れ込んだ生き物がたくましく生きている姿を見ることができました。

(写真5)トンネルに生息するドジョウ。

(写真6)トンネルに生息するザリガニ。
また地下トンネルを歩いて感じたことは「思ったよりも地上と変わらない環境」ということ。もちろん懐中電灯を消せば、あたりは真っ暗で一歩も歩けない状態ですが、取材時は強制的な換気により空気は澄んでいて息苦しさなどはなく、取水前だったこともあり木の枝や枯れ葉などのゴミも落ちていませんでした。管轄の東京都第三建設事務所では、年に1度は高圧洗浄機や汚泥吸引車などを使ってトンネル内をきれいに掃除しているそうです。また、コンクリートのひび割れなども定期的に点検・補修し、計画的な維持管理をされています。

(写真7)地元の小学生が壁面に描いた絵。
こちらの地下トンネル、「神田川・環状七号線地下調節池インフラツアー」と題して、普段から一般の方の見学(11月から5月の木曜日)なども受け入れているそう。導水連絡管の途中には、地元の小学生が壁面に描いた絵も見ることができます。
私たちの暮らしを地下で支える巨大調節池、自分自身の目で見てあらためて、災害時の重要性を感じ、その維持管理を担う皆さまへの感謝の気持ちを強くしました。一見の価値ありです!




























































