中小企業のSDGs

企業の事業内容に沿って、どのようなSDGsの目標達成が図れるのかを解説していく

【第22回】落花生の殻を使った紙で地域産業に貢献

企業の事業内容に沿ってSDGsの目標達成を考える本コーナー。今回は製造業のSDGsに関する取り組みを紹介する。


 千葉県千葉市に本社を置く株式会社みつわは1957年創業の地域に根ざした印刷会社。名刺や封筒からチラシ・パンフレットなどの販促ツールまで、幅広い印刷物を手掛けている。2024年に開発した落花生の殻を原料に使う「PS(Peanuts Shell)ペーパー」が、環境配慮のエコな紙として注目を集めている。
 開発のきっかけは、落花生の殻の廃棄問題を耳にしたこと。千葉県は落花生の生産量が全国1位だが、それゆえ廃棄物としての殻が年間約1800トン発生し、処分費用に約4900万円かかっていた。その話を聞いた代表取締役会長の尾形文貴さんは、それを使って紙をつくれないかと考えた。紙を扱う印刷業に長年携わってきたからこそひらめいたアイデアだった。
 紙製造は初めての挑戦。落花生業者組合から無償で殻を提供してもらうことからスタートした。協力してくれる製紙会社を探し、和紙づくりの製法を取り入れ、殻のパウダー15%を含む紙をつくることに成功した。
 「地元産業を守るため印刷会社でできることをしたいと思いました。前例のない取り組みだったので、最初は殻を提供してくれた落花生の業者さんも半信半疑でしたが、試作品が完成するととても喜んでもらえました」(代表取締役社長・大和久裕太さん)。落花生業者は廃棄の手間と費用が削減され、同社は無償の原材料で新たな製品を開発でき、地元産業の活性化にもつなげられた。
 

代表取締役会長の尾形文貴さん(左)と代表取締役社長の大和久裕太さん。

 PSペーパーはSDGsの観点から注目されることが多いが、尾形さんは「地域や印刷業界の未来と発展のためにすべきことをしたら、自然とSDGsの枠組みに当てはまっただけ。1つの取り組みに特定のゴールを設けるのではなく、やりながらさまざまな方向に派生、進化させていく。その進む先の1つにSDGsの達成目標があると考えます」と話す。その言葉を裏づけるように、同社ではPSペーパー開発以前から「結果的にSDGsに結びついた」取り組みを積極的に行ってきた。
 印刷業界全体で環境負荷低減の気運が高まったのをきっかけに消費電力の低いLED搭載4色印刷機を導入したのは2012年。2016年には、高齢者や障がい者を含むすべての人にわかりやすく情報を伝達するためメディア・ユニバーサル・デザイン教育検定の認定資格を取得した。その後も環境負荷の少ない用紙やインク、機材設備の導入、社内照明のLED化などを進め、2020年に規定の環境配慮基準を達成した工場のみが受けられる「グリーンプリンティング認定工場」に認定された。
 これらの取り組みはいずれもSDGsの達成目標と親和性が高い。対応には費用もかかり、業務手順の変更も生じるため一時的に現場の負荷も増えたが、先々を見据え実施した結果、SDGsに結びついた。その土壌があったことがPSペーパーの着想・開発につながっている。

PSペーパーを使った名刺。クリーム色で落花生の殻の手触りが感じられる。

 PSペーパー使用製品で最も問い合わせが多いのは県内企業や商工会議所からの名刺だ。名刺に使えば落花生の殻の再利用になるのはもちろん、渡す相手にSDGsの取り組みをアピールできる。「名刺から始めるSDGs」を合言葉に、何からSDGsを始めるか悩んでいる企業に活用してほしいと呼びかける。名刺以外にもスポーツ大会の賞状や紙製クリアファイルなどを作製しており、今後さらに種類を増やす計画だ。
 「環境配慮の取り組みと地域社会への貢献が1つのサイクルでつながる。それが持続可能な社会に必要なものだと思う。PSペーパーがSDGsや落花生産業に目を向ける契機になればうれしいです」(大和久さん)


こぼれ話

 PSペーパー開発のきっかけは会長の尾形さんが殻の廃棄問題を知ったから、と本文に記載しましたが、尾形さんが友人の落花生業者さんとお話をしつつ落花生を食べているときに「この殻、紙になるのでは?」とひらめいたそうです。早速チャレンジしようと製紙工場に相談したものの、テスト段階の少量生産は難しいと言われてしまい、協力してくれる手漉きの和紙工場を探し出し、話し合いながら試作を重ねられたとのこと。収穫直後の殻と、収穫からしばらく経った殻では色の出方も変わるそうで、現在の完成形に辿り着くまでは大変なご苦労があったのだと感じました。ですが、ご対応いただいた尾形さん、大和久さんとも「そんなこともあったね」「これが大変だったんだよ!」とどこか楽しそうにお話しされていたのが印象的でした。



 名刺以外の製品もいくつか拝見しました。写真は紙製クリアファイルとメモ帳です。名刺同様、落花生の殻の手触りがしっかり感じられます。ほんのりとしたクリーム色が目に優しくて素敵ですね。これらは今後千葉県関連のイベントなどで配布を検討していきたいとのことで、千葉県民の筆者はイベント情報をチェックしようとひそかに決意しました。
 PSペーパーを開発してから「環境」「SDGs」の切り口でのお問い合わせや、印刷業界外からのお問い合わせが増え、出会いが広がったそうです。落花生の殻廃棄問題の解消、新製品の開発、千葉県産業への貢献、新たな出会い…PSペーパーは各方面にさまざまな良い効果を生み出しています。これからさらなる展開を検討中とのことで、PSペーパーとみつわさんの今後に大注目です。皆さんがお住まいの街でPSペーパーを目にする日も遠くないかもしれません。見かけた際はぜひ手に取って、落花生の手触りを感じてみてくださいね!

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