Vol.6 人がつなぐ雄大な草原風景に出会える場所|阿蘇くじゅう国立公園
火山と草原の織りなす雄大な景観――阿蘇くじゅう国立公園。太古に炎を上げたかつての噴火口でもある阿蘇カルデラ地帯には約4.5万人が暮らす。世界でも類を見ない独特な光景だ。北へ連なるくじゅう連山など火山群と合わせ1934年に国立公園に指定された。人の関与が欠かせないという大草原に足を運び、国立公園利用企画官の鈴木裕二さんと牧野やガイドの釜崎笙さんに話を聞いた。
約27万年前にできたとされる阿蘇のカルデラは南北約25キロメートル、東西約18キロメートルという世界最大級の広さ。地下の水資源が豊富で古くから農耕や牧畜に利用され、今も「九州の水がめ」の役割を果たす。
一番の特徴といえるカルデラ周辺の広大な草原は人間の手によってつながれてきた。1000年以上前から続く放牧、採草、野焼きが生態系を支えてきたからだ。草は牛や馬が食べ、飼料として採取、そして良質な牧草に再生させる野焼きをする。その手を緩めるとこの地は一気に森林が覆い草原は失われてしまう。
2〜3月にかけて行う野焼き。前年秋に隣接地に防火帯をつくる。綿密な配慮と技術が必要な火付け役をこなすには10年近くかかる。そして高齢化によってその人材は激減している。
野焼きの規模が小さくなると草原の森林化は進む。「野焼き縮小に、生活様式の変化も加わり、現在の草原面積は100年前の半分程度になっています」(鈴木さん)。草原の縮小は阿蘇ならではの生態系の喪失に直結する。「森林化が進めば小さなスミレは背の高い草に覆われ芽が出なくなり、放牧がなくなると牛のフンを餌とするフンコロガシも生態を維持できなくなります」(釜崎さん)。
壮大な景観を楽しみにここを訪れる人は多いが、草原の危機については広く知られていないのが現状だ。阿蘇くじゅう国立公園では県や自治体、関係事業者らを構成員とする協議会のもと「阿蘇地域草原利用部会」を立ち上げ、草原を利用する事業者向けのガイドラインを整備した。草原を舞台にしたさまざまなアクティビティで阿蘇を楽しんでもらうと同時に、利用者に保全のルールや過去から現在に至る阿蘇の姿を正しく伝えようとしている。
「今ある草原を増やしていくというより、これ以上〝減らさない〞。自然と共存していくための保全の取り組みに重きを置いています」と鈴木さんは言う。

釜崎さんは認定試験に合格した「牧野ガイド」だ。牧野は管理された草原のため通常一般の人は立ち入ることができないが、ガイドが同行のうえ、トレイルウォークやサイクルライドといった体験プログラムなどのアクティビティを希望に合わせて提供している。なお、牧野認定ガイドの実施するツアーは参加料と併せて牧野保全料を収受し草原保全活動に還元する取り組みを実施している。
「火山などの自然風景は日本各地にありますが、阿蘇の草原の魅力は無二のものです。草原がもたらす開放感をぜひ体験してもらいたい」と呼びかける釜崎さん。だが、現在は人手不足などの影響でスムーズな対応が難しくなっているという。それでも地道な活動を通してより多くの人にこの地の魅力を伝えたいとの思いはいつも胸にある。
鈴木さんも「一度見たら忘れられない印象的な風景。人生の節目に再訪するという方も少なくありません」とこれまで目にした来訪者の笑顔を思い出す。
どこまでも広がる草原とその向こうにそびえる山々の圧倒的なスケール。いくつもの課題はあるものの守り続けていくべき場所だ。
現地訪問レポート
今回は阿蘇の牧野(ぼくや)で、草原フォトハイキングツアーを体験してきました。
最初にお伝えしておきます。阿蘇に行ったときは絶対に体験したほうがよいです!人の世界から切り離された別世界にいるような感覚を味わえますよ!
実は阿蘇訪問は2度目。数年前に旅行で訪れたことがありました。その時もカルデラが織り成す独特な景観にめちゃくちゃ感動したのですが、「わー!すごーい!きれーい!!」という浅い感想を大観峰(後述)で友人と叫び、阿蘇グルメ&黒川温泉まっしぐらでした。でもこういう人、きっと私だけではないはず。そんな人にこそ牧野ガイド体験が超!おすすめです。もちろん初訪問の人でもばっちり楽しめますよ!
阿蘇には約160の牧野があり、今回訪れたのは「町古閑(まちこが)牧野」。記事本文にも登場する牧野ガイドの釜崎さんに案内いただきました!「道の駅 阿蘇」で集合し、牧野まで車で送っていただきました。
ちなみに体験日は4月下旬。標高の高い阿蘇は平地よりも涼しいと聞いていたためTシャツやマウンテンパーカーを重ね着し、足元は動きやすいランニングシューズで参加しました。
牧野に入る前に口蹄疫予防のため石灰を靴底につけます。口蹄疫は極めて伝染力の強い家畜伝染病で、外部から持ち込むことは絶対に避けなければなりません。これに限らず、ツアー中はガイドさんの指示にきちんと従いましょう!

出発地にあった倉庫を覗かせてもらったのですが、とってもかっこいいフォードのトラクターとご対面。レトロなデザインに深みのある青色……素敵すぎませんか?こちら、なんと現役とのこと。アメリカの企業であるフォードのトラクターは広大な土地での作業に適した造りになっており、小回り重視の日本製のトラクターよりも阿蘇の草原にあっているそうです。この話だけでも阿蘇の草原の広大さがわかりますね!
倉庫の外に出ると、もうそこは360度草原です。
この写真、普通のスマートフォンで普通に撮影しまして、特に加工はしていません。
写真通りの景色がそのまま目の前に広がっていました。当日は天気に恵まれたこともあり、見渡すかぎりの青空と草原……。


上の写真の左側に小さく映っているのが出発地点の倉庫です。このスケール、伝わりますでしょうか?
この写真は外輪エリア(阿蘇の街をぐるっと囲んでいる尾根)の上から撮影しています。
外輪エリアには大観峰の展望台など普通に訪れることができる場所もありますが、ここは牧野ガイド同伴じゃないと立ち入ることができません。人工物はほぼなく、私たち以外の人はいません。空には鳥が悠々と飛び、ときおり風の音が聞こえます。
大自然という言葉でも足りないくらいのスケールの大きさに圧倒されました。

※ちなみに:数年前の旅行で撮った大観峰からの写真
同じ外輪エリアの上ですが、並べてみると景色が全然違いますね。大観峰からの大パノラマもとっても素晴らしいので、どっちがよいではなくどっちも行ってください!(圧)

さて、釜崎さんのお話を聞きながら草原を歩きます。
こちらが本文にも登場したスミレ(キスミレ)です。スミレ=紫のイメージだったので、スミレだと聞いたときはびっくりしました。小さくてとってもかわいらしい花でした!

薄茶色の部分は昨年野焼きをやめたエリアで、古い枯れたススキがそのまま残っています。手前の草原部分と比べると全然違いますよね。1回野焼きをしないだけでこれなので、野焼きが草原保全に必要な理由がよくわかりました。森林化が進んで背の高い草に覆われてしまうと、キスミレは芽が出なくなって絶滅してしまうそうです。
牧野ガイドを実施しているのは放牧が行われていない時期なので、一般の人は残念ながら放牧の様子を直で見ることはできません。ですが痕跡を見ることはできます!それが、牛道(うしみち)!
左の写真、正面の斜面にぼこぼこ横線みたいなのが入っているのが見えるでしょうか?近づいて斜面を横から撮ったのが右の写真です。


後ろのギザギザしている山は阿蘇山のひとつ、根子岳(ねこだけ)です
牛がこの斜面を散歩するとき、
①歩きやすい場所を選ぶので次第に草があるところとないところに分かれる(道路の轍(わだち)をイメージしてもらえるとわかりやすいです)
②牛にとってこの斜面は急なのでスイッチバック方式で登る
というのを繰り返すうちに、このような模様が生まれるんだそうです!牛ってのんびり過ごしているイメージがあったのですが、斜面を頑張って登る姿を想像するとそれも改めなければと思いました。
草原にはウサギやキツネなどさまざまな野生動物も生息しています。
釜崎さん「カヤネズミはススキなどの葉を使って茎に巣を作るんですよ」
私「そうなんですね(いまいちイメージがわかないな……)」
釜崎さん「使われていない巣を採取したものがこちらです(ポケットから取りだす)」
前回・那須のりーたさんもでしたが、ネイチャーガイドの方は特殊な収納術を身につけているのでしょうか?おかげでカヤネズミの巣の形状がばっちりわかりました!笑

途中で国立公園利用企画官の鈴木さんにも合流いただきました。
草原の保全活動に関わるお二人から、草原に関する説明や阿蘇に対する想いなどを聞きながらの散策。とても贅沢な時間を過ごさせていただきました。
雄大な景色を見て某アルプスが舞台の作品の歌が頭に浮かんだのですが、あながち間違いではありませんでした。阿蘇の名産といえばあか牛が有名ですが、なんとスイスの牛種と在来種を交配させて誕生したんだそうです!阿蘇の環境がスイスに似ているからスイスの牛は阿蘇に合うのではないか?ということで輸入されたそう。冒頭のアメリカ製トラクターもですが、思わぬところで世界とつながっているのがとても面白いと思いました。

釜崎さんの草原フォトハイキングツアーは完全プライベートツアー。時間や集合場所、内容は参加者の希望に合わせて対応してもらえます。
今回は3時間ほどかけて牧野内を歩きながら、草原保全や牧野ガイドの活動、阿蘇地域の魅力など全般的にお話を聞きましたが、例えば花の写真をひたすら撮りたい、ピクニックを楽しみたいというような希望もウェルカムとのこと!事前に相談すれば、大自然の中でやりたいことを自由に楽しめます。
ちなみに釜崎さんのおすすめは電動マウンテンバイク体験。斜面もラクラク登れ徒歩より行動範囲も広げられますし、何より解放感が最高だそうです。釜崎さんはフォトグラファーとしても活動されており、希望すればキレイな写真の撮り方も教えていただけますよ!
当日申込も受け付けてはいるものの、対応できるかどうかはその時の状況次第だそうなので、確実に体験したい方は事前予約がオススメです!
本文でも触れましたが、阿蘇の景観は人の手があるからこそ存在しています。このツアーは参加料と牧野保全料を収受し、草原保全活動に役立てられます。また、あか牛を100g食べると巡り巡って4畳半分の面積の草原保全につながるという試算があるそうです。
「阿蘇に来てさまざまなアクティビティを楽しんでくれるだけで保全につながります。とはいえ、観光で来られる際はまずは気軽に楽しんでほしいです!あか牛もたくさん食べてくださいね!」と笑顔で話す釜崎さんと鈴木さんに見送られ、解散場所の道の駅で筆者は早速あか牛グルメを探しに行くのでした。
ちなみに今回国立公園乃印はゲットし忘れてしまいました……。
早くも制覇の夢は潰えましたが、できるかぎり集めるという目標に切り替え、次回は忘れずゲットします!
▶国立公園乃印についてはこちらから
https://www.env.go.jp/nature/nationalparks/pick-up/stamp/


























































