【第15回】地域循環共生圏を築く廃棄物処理
企業の事業内容に沿ってSDGsの目標達成を考える本コーナー。今回は廃棄物処理業のSDGsに関する取り組みを紹介する。
設立時は酪農業。現在は業種を変更し、回収した有機性廃棄物を独自のノウハウで有機堆肥・肥料に加工している株式会社アサギリ(本社・静岡県富士宮市)。設立から59年、肥料製造の開始から36年。その歴史は挑戦の連続だった。
「事業転換当初は廃棄物処理業が悪者扱いされていた時代です。偏見もありましたし、怪しげなブローカーもいました。私たちは実直に事業に取り組みながら少しずつ信頼を勝ち取り、事業の幅を拡げてきました」と代表取締役の簑威賴さんは話す。ホームページでは生産設備から取引先まで徹底して情報を開示。隠すべきことは何もないと伝えている。
静岡県近辺の食品工場で生じた廃棄物(食品残渣)、周辺下水処理場で発生した汚泥などのほか、富士山麓地域の牧場で発生する家畜糞尿の約40%を受け入れ、これらを有機性の堆肥・肥料に加工している。ミネラルを多く含み、作物の品質や終了に貢献することは実証済み。肥料は主に静岡県内の耕種農家らに販売しており、原料調達・製造・販売というサイクルを通じ地域循環共生圏を築く中核的な役割も担っている。
「一般的な廃棄物処理の延長で商品を開発するのでなく、農家さんの要望を伺い、商品化しています。たとえば『アサギリMIXペレット』は化学肥料の散布機でも使用できるペレット型肥料の需要の高まりに応えるため開発しました。いわゆるマーケットインの発想で商品を開発するからこそ、廃棄物を無駄なく資源化できます」
さらに山梨県のバイオマス発電所で発生したバイオ炭を活用する「バイオ炭堆肥」の製造も始めた。販売先は温暖化対策に取り組む生産者団体。団体からは、この堆肥を活用する農家に対し炭素貯留証明を発行する。証明を受けた農家は二酸化炭素(CO2)削減分をJ-クレジットとして販売できる。堆肥が農業の温暖化対策につながると注目され、多くの問い合わせを受けているという。
こうした取り組みが評価され、2023年の静岡県SDGsビジネスアワード優秀賞を受賞した同社。そのビジネスモデルと、サステナビリティを重視する現代社会の潮流とが同調してきたしてきた格好だが、簑さんはその先を見据えている。
「今後は環境配慮型商品が一般的になる時代が来るのではないでしょうか。私たちは将来も生き残るためにまずは生産体制を拡大し、さらに外部提携などを通して商品開発に力を入れ、循環型のエコな肥料のラインナップを増やします」
こぼれ話
富士山麓の朝霧高原は古くより酪農が盛んな土地です。その朝霧高原で簑さんのお父さまが酪農業から廃棄物処理業へ業種転換を決断した際、親戚らが猛反対したそうで、最終的には本家のお爺さまが「廃棄物処理はこれから必要な事業だ」と転換を認めてくださり、それでやっと反対の声が静まったとのことでした。
ホームページで取引先まですべて載せるのも「やましいことは何ひとつとしてないから」。実直に事業を展開し、今があるということがお話を伺う中でよくわかりました。 簑氏は現在も大学の研究機関などとの連携を通じ、自社製品の改良や新製品開発のヒントを得られています。きっと遠からぬうちに新しい商品やサステナブルなビジネス手法が生み出されることと思います。今から期待大です!
日々2児の子育てに奮闘するお父さん。
自然と触れ合うのが何よりも好きです。