【第7回】地域特性を生かして脱炭素/岩手県

「わんこそば」で削減量積み上げ

 四国とほぼ同等の広大な面積と豊かな自然を有する岩手県は2019年11月にゼロカーボンシティを宣言した。「省エネルギー(省エネ)と再生可能エネルギー(再エネ)で実現する豊かな生活と持続可能な脱炭素社会」を目指し岩手県地球温暖化対策実行計画を策定し、脱炭素に取り組んでいる。
 現行計画は第2次に当たり、第1次計画は2011年度から10年間で温室効果ガス排出量を25%減らす目標だった。だが2018年度までの削減量は11.2%。内訳を見ると産業部門、業務部門の二酸化炭素(CO2)排出量が増えていた。これには1989年以降県内の世帯数が増加を続けていることと、産業・業務部門が東日本大震災からの復興を優先し、省エネの優先順位が相対的に低くなったことなどが関係している。
 「これまで CO2削減が進まなかった部門でも主体的に活動してもらえるよう、より実効性のある取り組みを意識して進めています」と話すのは岩手県環境生活部環境生活企画室グリーン社会推進担当の主査鎌田憲光さん。その取り組みの1つに「温暖化防止いわて県民会議」がある。地域企業をはじめ地域活動団体や教育機関などと自治体が一体となり、脱炭素に向けたイベント開催や優れた取り組みの表彰など、県民運動を展開している。同会議が主宰するサイト「いわてわんこ節電所」は、「使っていない場所の照明は消す」「冷蔵庫にものをつめこみすぎない」など各家庭で実施した省エネ活動をチェックすることで CO2削減量を見える化し、その削減量が県の名物・わんこそばのように積み上がっていくという県民参加型の取り組みだ。
 「持続可能な脱炭素社会を実現したいという志を同じくする企業や環境団体らが協力し合い、省エネ意識の啓発に取り組んでいます。わんこそばには、岩手のおもてなしの心が詰まっており、いわてわんこ節電所という名前にはわんこを重ね、岩手から地球へ CO2削減というおもてなしをしようという意味があります。エコチェックにはこれまで県民ののべ5万人以上が参加しており、県の調査でも温暖化防止のための行動を実施している県民は7割を超えています。今後もSNSなどを活用し、県民のより一層の行動を促していきたいと考えています」

「いわてわんこ節電所」サイトのトップページ。
CO2削減量をわんこそばのように積み重ねようと呼び掛ける。

省エネ、再エネ、森林吸収

 2050年のカーボンニュートラルを目指す中で、2021年度からの第2次岩手県地球温暖化対策実行計画では、2030年度の目標を2013年度比温室効果ガス41%削減とした。そのために再エネ電力自給率を現状の34.4%から65%に、森林吸収量は過去5年間の平均値に相当する133万9000トン―CO2になるよう活動していきたいと考えている。
 「岩手県は風力および地熱の推定利用可能量がともに全国2位になっており、豊富なポテンシャルがあります。そうした地域特性を生かして再エネ導入を進めたいと考えています。また、森林資源も豊富にある。持続可能な森林整備やバイオマスエネルギーの利用促進などを通じ、地域経済や生活の向上にも資するような取り組みを推進していきます」
 そのほかにも県は、家庭・事業者への省エネ・再エネ機器導入支援などを通じ、省エネの推進も図っていく。クリーンなエネルギーと CO2吸収量を増やす一方でエネルギー使用の効率化を通じ、脱炭素をさらに推し進めようという考えだ。また、温暖化防止いわて県民会議は今後も県民の省エネ意識の定着・向上に向けさまざまな活動を行っていく。
 こうした官民一体の取り組みによって岩手県は、2050年カーボンゼロに向かっていく。

こぼれ話
岩手県は再生可能エネルギーの潜在ポテンシャルが非常に高い県です。 風力および地熱の推定利用可能量がともに全国2位であり、森林資源も豊富です。お話を伺うと、豊かな自然環境を上手に活用しながら脱炭素を実現したいという思いがよく伝わってまいりました。特に市民向けの啓蒙活動「いわてわんこ節電所」は日に日にCO2削減量を積み増しており、2022年9月14日時点で5万7,000人が参加、CO2削減量が13万2,056Kgとなっています。積みあがったわんこは岩手山の高さを目指しているそうです。
今後の成果が楽しみな取り組みです。

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