国立公園を歩く

国立公園は全国に35ヵ所。日本各地の豊かな自然環境、生態系、守っていきたい風景をご紹介します。

Vol.7 多数の島々を抱き変わり続ける海|瀬戸内海国立公園

 瀬戸内海国立公園は日本初の国立公園の1つとして1934年に指定された。和歌山から大分まで1府10県にまたがり海域を含めた面積は90万ヘクタール超と日本最大。700余りの島々が点在する特徴的な景観を中心に、白砂青松や花崗岩由来の奇岩・奇峰、嚴島神社などの神社仏閣、レジャーを満喫できる六甲山といった多様な要素を含む。古くから人の暮らしと自然が調和してきた場所でもある。
 瀬戸内海は東西南北を山地に囲まれた、平均水深約38メートルの浅い海。もともとは陸地で、約300万年前に四国の南側にあるフィリピン海プレートの運動方向が変わったことで、シワがよるように地殻変動が起き、隆起帯と沈降帯が交互に生まれた。そこに海水が入り瀬戸(隆起帯)と灘(沈降帯)が入り乱れる多島海の景観を持つ内海ができた。この景観が国立公園指定の決め手となった。
 当初の候補地は香川県の小豆島と屋島のみだった。だが、調査団が鷲羽山わしゅうざんから望む内海多島海の美しいパノラマ景に目を止め、沿岸各地の展望地を探索した。そこには近景から遠景まで広い範囲に点在する島々の雄大な連なりがあった。かつて海を渡り来日する欧米人に称賛された船上からの眺めとは異なる展望地からの風景は高く評価された。そうして備讃瀬戸を中心とする国立公園が誕生した。

 

国立公園指定の決め手となった鷲羽山からの景観。ただし指定の当時は瀬戸大橋はなく、完成したのは1988年だ。(写真提供:中国四国環境局)

 中国四国環境局国立公園利用企画官の大林めぐみさんは「瀬戸内海は変わり続ける場所」と話す。その典型が瀬戸大橋。公園指定当初は存在しなかったが、今では鷲羽山からの景色となじみ、地域の交通手段を船から車や電車へと変え、風景を眺める場所にもなった。
 もともと瀬戸内海は船の航行に適していた。陸地に囲まれ外洋からの風の影響を受けにくく波が穏やかである一方、浅く狭いため潮流が速く、それを推進に利用できる。古くは遣隋使・遣唐使の航路が開かれていた。江戸時代にも関西圏と東北や北海道を結ぶ北前船の航路があった。
 「沿岸近くの水深は特に浅いため、大型船を岸から離れた海上に停留し、小型船で陸地との間を往復して物資を運搬していました」(瀬戸内海歴史民俗資料館館長 松岡明子さん)。風や潮が目的地の向きになるまで船乗りたちが待つ「風待ち・潮待ちの港」が整備され、広島県の鞆の浦や御手洗、岡山県の下津井などには昔の街並みが今も残る。
 交通手段だけでなく社会や産業の変化も瀬戸内海の情景を変えた。瀬戸内海は昭和中期まで塩の一大産地だった。温暖少雨の気候と大きな干満差という特徴を当時の人は利用していた。
 1960年代、都市化や工業化が急速に進み塩田跡は工業用地に転用されていく。一時は海砂採取や工場排水で水質が悪化し生態系にも影響が出た。それを官民あげての環境改善の取り組みで美しい海に戻していった。ただし、きれいになり過ぎたことで、海洋の生態系に必要な栄養塩類が不足するという問題も発生しており、その解決に向けた対策が進んでいる最中だ。
 時代の移り変わりとともに景観も人の営みも変化する瀬戸内海国立公園。訪れるたびに違う魅力に触れられるだろう。

現地訪問レポート

中部山岳国立公園の取材で紅葉のシーズンを逃してしまった反省を生かし、瀬戸内海では梅雨に入る前のベストシーズンを狙うことにした私。例年の梅雨入り時期を調べ、その前に訪問できるよう綿密に計画を立てました。
と思いきや、今年は例年よりも梅雨入りが早く、まさかの取材当日に梅雨入り。事前に資料で調べていたような景色はほぼ見られずでした……。残念でしたが、それでも瀬戸内海の雄大さや魅力には触れられたので、見てきた範囲でお伝えします!

広い広い瀬戸内海国立公園の中から、今回は岡山県倉敷市鷲羽山と香川県高松市の瀬戸内海歴史民俗資料館に訪問してきました!ルートは【岡山駅→鷲羽山→香川】といった感じです。岡山駅から鷲羽山までは車で1時間ほど。電車で行くこともできますよ。

初日は鷲羽山で環境省の大林さんと合流し、山頂・標高133mの「鍾秀峰しょうしゅうほう」で、瀬戸内海を実際に見ながらお話を伺いました。本文でも触れましたが、瀬戸内海国立公園誕生のきっかけは鷲羽山からの雄大な景色。それを見つけた調査団の1人が地元・倉敷市出身の田村剛たむらつよしさんです。なんだ地元の人のプッシュか~と思いきや、当時は田村さん含め地元の人は高台から瀬戸内海を眺めるということをあまりしておらず、このような景色は知られていなかったそうです。知らずに突然こんなに綺麗な景色が見えたら感動しますよね!ちなみに田村さんは日本の国立公園の制度設計に尽力し「国立公園の父」と呼ばれているすごい方でした。

当日の鷲羽山展望台からの眺望。晴れている日はもっと遠くまで見渡せます(涙)

左側の写真に写っている瀬戸大橋のたもとの島はすべて香川県坂出市に属するそう。鷲羽山(岡山県)から手が届きそうなのに香川県なのが不思議な感じです。この中には有人島もいくつかあり、島の環境や島民の生活を守るために一般車両の立ち入りは原則不可となっています(路線バスを利用すれば入島は可能です)。

大林さんが力を入れて取り組んでいるのが「瀬戸内海国立公園ストーリー」作り。瀬戸内海の地形や自然、歴史や文化などを調査し、地域資源のつながりや共通性・固有性などを冊子にまとめる取り組みです。
大林さんが利用企画官に着任されてから感じた「地元の人は『何もない』って言うけど、本当?」「そもそも瀬戸内海ってどんなところ?」という疑問から、「各地域の魅力を掘り起こしつつ『瀬戸内海国立公園としての一体感』を作り上げたい!」という思いで始められたそうです。
ストーリー自体は他の国立公園でも作られているのですが、瀬戸内海国立公園では【共通性をとりあげる全体ストーリー】と【固有性に注目した各地域のストーリー】の2本立てなのが特徴。新たな魅力を発信し、地元への理解を深め地域間の交流が生まれるきっかけになれば、とお話されていました。
地方出身の筆者、「地元なんか何もないよ~」と言ってしまう気持ちがすごくわかります。毎日見ているものって特別だと思わないんですよね。大林さんのお話を聞きながら、私も自分の地元についてもっと知ろうという思いが強くなりました。

▶瀬戸内海国立公園ストーリー集についてはこちらから
https://chushikoku.env.go.jp/procure/page_00009.html

鷲羽山ビジターセンター内に2026年3月にオープンしたカフェ「KOTKA SETOUCHI(コトカ)」にも寄らせていただきました。実は瀬戸内はお茶の栽培がさかん。こちらでは美作みまさか番茶をはじめとする岡山のお茶を使ったドリンクがいただけます。私は「瀬戸内煎茶ソーダ」を注文。お茶とソーダって合うの?と思っていましたが、飲んでみると煎茶の豊かな風味と炭酸のさっぱり感がベストマッチ!今までに飲んだことがない不思議な味わいで、でもとってもおいしかったです。
カフェは室内席、テラス席の両方があり、どちらからも瀬戸内海を望むことができますよ♪

翌日は瀬戸大橋を渡って香川県高松市の瀬戸内海歴史民俗資料館へ。
瀬戸大橋は鷲羽山と香川県坂出市を結んでおり、車か電車で通行可能です。車なら片道約30分ほどで渡れてしまいます!私は車だったので絶景ドライブを楽しみにしていたのですが、前日以上に天気が悪く、360度真っ白な霧の中のドライブとなりました……。

瀬戸内海歴史民俗資料館では館長の松岡さんにご案内いただきました。
館内には実際に使われていた木造船や漁業道具などが展示され、瀬戸内海で人々がどのように生活していたかを知ることができます。所蔵する民俗資料約3万点のうち約6,000点が国の重要有形民俗文化財だそうです。すごいですね!

展示室に入ると大きな船が何艘も並んで展示されおり、圧巻!!
時代や用途、漁法に合わせ、形や大きさを変えながらさまざまな船が作られてきたことが伺えます。松岡さんに「この船は何に使われていたでしょうか?」とクイズを出していただきましたが全然正解できませんでした。一本釣りの餌用のエビなどを入れておく生簀として使われていたとっても小さな船について「SUPのようなアクティビティ用でしょうか?」などと回答してしまい本当にすみません……。

展示室の端から端まで船が並んでいます!

「瀬戸内海の条件は船の航行に適している」と本文で触れましたが、干満差が大きかったり潮流が早かったりと「“適している“けれども“難しい“」 海なので、自然と航行技術や造船技術が発達しました。室町~江戸時代にかけて高い航行技術で航海の安全保障を請け負っていたのが「海賊」です。村上海賊が有名ですが、今回訪問した海域で活躍していたのは「塩飽しわく水軍」。本拠地は本島ほんじまという瀬戸大橋のすぐ横にある島でした。このあたり個人的にとっても興味がある部分でして、もっとたくさんお話したいのですが、脱線していきそうなので今回はこのあたりで……。

航海の安全や大漁を祈願して船内に祀られた神様「フナダマサン」。時代によって形はさまざまですが、航海の厳しさがうかがえます

資料館がある五色台ごしきだいは、瀬戸内海を香川県側から望むことができる景勝地で、1950年に瀬戸内海国立公園に編入されました。実は本州~四国間の海幅がもっとも狭い場所で、瀬戸大橋は鷲羽山~五色台を結ぶ計画もあったそうです。 1973年に完成した資料館は「国立公園になじむ外観とし、公園散策の合間に一息つきながら学べる場所」というコンセプトで設計されたそう。資料館の建物も国の重要文化財に指定されています。
ということで最後に資料館の屋上にある展望台に行ってみたのですが、真っ白でした(知ってました)。


これだと何もわからないので、こちらが五色台と資料館の全景です!
資料館の右斜め上、1ヵ所だけ屋上が白い建物が上の写真で私が立っていた展望台です。岡山県側から見るのとはまた違った瀬戸内海の風景が楽しめます。対岸に本州がくっきりと見えており、鷲羽山からの眺望と比べてみると距離の近さがわかりますね!

(写真提供:瀬戸内海歴史民俗資料館)

見られなかった展示もありますし、お話を聞いているうちに瀬戸内海の歴史や文化をもっと知りたいという気持ちが湧いてきたので、今度はぜひ晴れている日に行きたいと思います。ちなみに入館料は無料です!無料でよいのでしょうか?と聞いてしまいたくなるほどたくさんの展示がありますよ!

今回ご紹介したのは瀬戸内海のほんの一部にすぎません。広いからこそ地域ごとのさまざまな魅力に触れられるのが瀬戸内海の最大の魅力だと感じました。お気に入りの「瀬戸内海スポット」を探してみるのもオススメです。皆さんもぜひ訪問してみてくださいね!

国立公園乃印は前回の阿蘇に続きゲットし忘れてしまいました。専用台紙以外にも記録を残しておきたいと思い、自分用のスタンプ帳も買ったのですが……無念です。
▶国立公園乃印についてはこちらから
https://www.env.go.jp/nature/nationalparks/pick-up/stamp/

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