• 日本の環境教育
  • 全国各地の環境教育授業の様子をレポート。地域の特色を活かし地元住民と協力しながら進める授業や、企業が出張して行う出前授業などユニークな取り組みを紹介

本庄市立藤田小学校 清流を取り戻せ

埼玉県本庄市にある市立藤田小学校は、1874年に開校した全校児童123名の学校。ここでは児童が、本庄市内を流れる利根川水系の小山川と元小山川の河川調査を行っている。

児童が調査する河川は、かつて豊富な湧き水が流れ出ていた。埼玉県の指定天然記念物で、清流を好む魚ムサシトミヨが生息し、夏にはアユ釣りやホタル観賞も楽しめる川だった。だが高度経済成長期の生活排水によって汚れが進み、現在は湧き水も枯渇。生態系が大きく変わり、1985年頃には県内でも水質ワースト2位を記録する状態になってしまった。
そこで10年ほど前から行政と住民が協力して水環境の改善を目指す「清流ルネッサンスⅡ」という取り組みが始まった。この活動の一環として実施される河川調査に、同校の5、6年生が参加している。

河川調査は、わたしたちの仕事

専門家が調査を指導
目的は、「河川の現状を詳しく調べ、どうすればかつての美しい川を取り戻せるか自ら考えること」。児童は、水深や川幅、水温を計測し、生物を採取していく。今年の調査では、小山川でエビ、ヤゴ、コイなど、元小山川でシマドジョウやナマズなどがとれた。
河川調査には、県や市の職員、近隣の高校生らが同行し児童の活動をサポートする。埼玉県の環境科学国際センターに所属する金澤光さんは、埼玉県に生息する淡水魚など水産生物の研究者。専門家として、調査や生物採取の方法を丁寧に指導する。今回の調査で金澤さんは児童にこんな質問を投げかけた。「今年は元小山川でシマドジョウが採取できました。何年も姿を見せなかったシマドジョウがとれた理由を考えてみましょう」。シマドジョウは比較的水のきれいな場所にすむ生物。ここ数年はドジョウ以外にも採取される生物の種類が増えている。改善活動の成果が徐々に表れているようだ。

まずは知ることから
児童は河川調査終了後、その結果や金澤さんからの宿題について調べ学習を行い、1年間の成果を地域の環境保全会議で発表する。
6年担任の武藤知啓さんは「子どもたちの力だけで環境保全を進めるのは難しいかもしれませんが、まずは両河川をはじめとする地域の特性を知ることが大切。藤田地区は緑の多い恵まれた環境が広がっています。この活動を通じて子どもたちに、すばらしい環境に住んでいることを認識してほしい。それが環境への感性を身につけ、保全活動にもつながる」と話す。実際に、卒業後も地域の環境保全活動に参加し、河川調査のアドバイザーを引き受けてくれる子どももいる。
学校では給食の食器を一度拭いて返却するなど普段から水とのかかわりを考える機会を大切にしているという。環境保全の意識はこうして育まれていく。


胴長を着て河川に入り、川幅や水深を測定。網を使って生物の採取も行う。
採取した生物は、種類などを記録し、年ごとの変化を確認する。
こぼれ話

藤田小学校では、河川調査で採取した生物を持ち帰り、校内に開設した「ふじっ子水族館」で展示しています。河川調査に参加するのは5・6年生のみなので、そのほかの学年の子どもたちにも、川の生物に親しむ機会をつくり、地域のことを知ってほしいという思いから、空き教室を利用して小さな水族館をつくりました。
水族館には、水槽を泳ぐ生物のほか、児童が描いた魚の絵や、生物の特徴をまとめたものが貼り出され、河川調査当日の写真も飾られています。そうした環境のなかで生活する1年生から4年生までの4年間は、河川調査を行うための準備期間といえます。無意識のうちに、「5年生になったら河川調査に参加して、川の環境改善に参加する」という期待とともに、意識や責任感も芽生えていくようです。

水族館にはエビやヤゴ、ドジョウなど川に棲む生物が展示されています

児童が描いた魚のイラストや、河川調査の様子を展示

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