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  • 東日本大震災から復興への歩みをみせる被災地の企業や日本テクノの取り組み

東北を元気にするプロジェクト推進Scene 23

 「残された命をどう使うべきか考えました」と話し始めたのは株式会社百反の専務取締役・岩本富貴さん。仙台市内を中心に8カ所のパチンコ・スロット店の運営と不動産賃貸業を営む企業。東日本大震災では塩釜店が流され、従業員の家族も亡くしている。
 震災から約1カ月後、岩本さんは所属する仙台商工会議所青年部(YEG)の仲間と「ボランティアではなく、従業員の雇用を維持し、新たな仕事を生み出し、自分たちが元気になる」活動をしようと「Buy!TOHOKU」プロジェクトを立ち上げた。東北の商品を広く購入してもらい、多くの人に訪れてもらう呼び掛けだ。
 まず岩本さんは1枚1円の義援金になる「Buy!TOHOKU」シールを景品に貼ったり、地元商品を景品にするなどの活動を開始。続いて、全国に1万以上あるパチンコ店の景品に、地元名産品を使ってもらえるよう仕向けた。全国のパチンコ店が発注する際の景品リストに東北の商品を掲載してもらったのだ。
 こうした岩本さんの活動には多くの企業が賛同した。パチンコ台のメーカー・ニューギングループもその一つ。ニューギンは新たな販促品の企画で参加した。パチンコ店に自社製の台を売り込むためのノベルティに、石巻やきそば、サイダー、箸、日本酒など地元を中心に東北の商品を採用。それを包むパッケージに宣伝したいパチンコ台のキャラクターをあしらった。「東北を元気に」のコンセプトを貫き、包装の制作や印刷から、運送まですべて地元企業が携わるようにした。販促品は全国のパチンコ店に配られるので発注は1万点単位。
 1年生のときからホテル天竜閣での共同生活を経験している世代は、2013年度の全国高等学校サッカー選手権大会へ出場を果たした。今年度は県大会の決勝で惜しくも敗れたが、ここでの生活で得たものは勝敗よりも温かい。

パチンコ店イメージ改善の思いも込め──

地元企業には大きな仕事がもたらされる。岩本さんは言う「この活動を続ける一番の理由は、東北を元気にすることです。しかしそれと同時に、当社の従業員が胸を張って働ける環境づくりの意味もあるんです」。パチンコ店に対して良くないイメージを持つ人もいる。岩本さんはパチンコ店の経営者であることを理由に面会を断られた経験もある。
 だが「Buy!TOHOKU」の活動を懸命に進めていく中で、多くの理解が得られてきた。「イメージではなく、地域のこと、お客様のこと、雇用のことを真剣に考えているという中身の姿で評価されるようになってきた。それが当社で働く従業員の誇りにつながればいい」と岩本さん。元気にするのは従業員も含む東北の人全員だ。
 岩本さんは話を「業界が変わっても、この活動は可能です。1社でも多くの企業に東北を応援していただけるよう活動を続けていきます。」と結んだ。

株式会社 百反の専務取締役・岩本富貴さん。
前に並ぶのは地元名産品をパッケージした販促品。

こぼれ話

 「ボランティアではなく、仕事を生み出し雇用を守り自分たちが元気なろう!」という考え方や震災後の「パチンコと自販機はいらない」とのある知事の発言を「これはチャンス」と捉えた岩本様。前向きに現実と闘っている姿に感激した。インタビューの後半で「風化を感じる」との言葉に現実を見たような気がした。確かに震災の記憶はある。様々な記録もほぼ毎日のように何かしらのメディアで紹介されている。しかし、「残された命」と聞いて、その意味を理解するのに少し時間が掛かった。これが揺れだけを感じ、帰宅難民だけであった私の4年という月日だろうか。
 「従業員に誇りを持って働いて欲しい」そんな思いも岩本様の活動の原点である。パチンコ店というだけで面会して頂けないことがあったというご自身の経験から生まれた言葉だけに感慨深い。来店されているお客様へのバッシングにも気を遣っていた。「Buy!TOHOKU」を最大限活用すると宣言し、東北に目を向けてもらう活動を継続している岩本様に元気をもらって帰ってきました。

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