【第11回】環境保全と経済振興の循環「エコガーデンシティ」/御殿場市

優秀事例を中小に展開

 御殿場市は2050年の二酸化炭素(CO2)排出量実質ゼロを表明し、第二次御殿場市環境基本計画に沿って脱炭素化を進めている。

「2021年の温室効果ガス実質排出量はCO2換算で70万1000トン。基準年の2013年より減っていますが2019年の69万4500トンからは微増しています。原因は経済活動の活性化による産業部門の排出増。今後は市内の脱炭素活動におけるトップランナーの優秀事例を、中小の事業所に展開し、市全体として取り組みを広げていきたいと考えています」(環境市民部環境課 環境政策・保全スタッフ統括 渡邉達也さん)

 

エコガーデンシティ構想

 御殿場市は、世界遺産・富士山の前庭という豊かな環境と景観を持つ。これを保全し活用する取り組みと、経済の振興活動とを好循環させる「エコガーデンシティ構想」が進行中だ。2017年に始まり2023年に7年目を迎えている。

 現行プロジェクトの主な取組は2つ。1つが地域通貨による経済活性化。もう1つが「木育」推進による関連産業の活性化だ。

「デジタル地域通貨“富士山Gコイン”は2023年11月現在市内約340件の店舗などで利用可能です。市の人口は約8万5000人ですが、Gコイン利用登録実績は3万6000回を超えています。Gコイン専用のプレミアム付きデジタル商品券を用意するほか、ボランティアやイベント参加などでもポイントがたまる仕組みです。脱炭素関連では太陽光発電、家庭用エネルギーマネジメントシステム、電気自動車の複数同時導入に、Gコインによる上乗せの補助が出ます」(企画戦略部未来プロジェクト課長 勝又喜英さん)

 Gコインは市内でのみ使用可能なため、地域の経済振興につながる。太陽光発電の導入支援などと組み合わせれば、まさに環境保全との好循環を生み出せる。

 そして2023年6月から本格的に取り組んでいるのが「木育」だ。

「市の総面積のうち森林は約56%です。しかしその森林の95%以上は1ヘクタール未満と小規模な個人所有のもので、これらはコスト面の問題から放置されているのが現状です。その対策の1つが木育の推進です。木育とは乳幼児から高齢者まで木と触れ合う環境をつくり出し、さまざまな主体が協働して地域の自然環境を保全する活動。それを軸に、木材の伐採から加工、販売まで行う地産地消体制づくりを進めています」(勝又さん)

 整備の進んだ森林は温室効果ガスの排出量削減と同じく吸収量として算定できる。市は排出量削減価値を取引する東京証券取引所のカーボン・クレジット市場に参加しており、今後整備が進んだ分の吸収量を市場で売却し、ポイント還元の原資などに充てたい考えだ。  富士山麓に広がる御殿場市。繫栄を維持しながら、豊かな自然を後世につなげるべく、官民一体で「エコガーデンシティ」の構築に取り組んでいる。

逆さ富士と御殿場市の小学生。富士山の前庭として持続可能な市を目指す

 

こぼれ話
 御殿場市の近年の観光名所といえば「御殿場プレミアム・アウトレット」が挙げられます。こちらでは国内だけでなく海外からも多くの方がやってきて、ショッピングを楽しんでいらっしゃいます。しかし、アウトレットの買い物ツアーに参加する人のほとんどは御殿場市内で立ち寄るのがこのショッピングモールのみのため、この人たちにいかに市内でお金を使ってもらうかが課題だったそうです。Gコインという市内のみで使用可能な通貨をつくった裏には市内での消費の拡大を実現したいという思いもありました。
 写真の逆さ富士は御殿場市の環境対策の資料などの表紙に使われているものです。水田に映る小学生と富士山が象徴的で、紙面でも使わせていただきました。

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