家庭やビルに自前のエネルギー 弱風も生かす垂直軸

木綿 隆弘(きわた たかひろ)
金沢大学理工学域 機械工学類流体工学研究室教授。RSET・大容量発電技術部門の部門長。

サステナブル(持続可能な)社会を築くためのヒントを、学術研究の最先端から探っていく本コーナー。今回は「金沢大学理工研究域サステナブルエネルギー研究センター(以下、RSET)」で研究が進む小型風力発電技術を追った。

垂直軸風車を研究

RSETは、安全で持続可能なエネルギー生産技術によって循環型社会の構築に貢献していくため、2011年に発足した。3部門で構成される研究組織のうち、今回は大容量発電技術部門の部門長である木綿隆弘教授に風力発電研究の最前線と、その課題について話を聞いた。
風力発電は現在、海岸線や洋上などに設置された3本羽根の大型プロペラで発電機を回す風車タイプが主流で、これは水平軸方式と呼ばれる。一定風向・風力が見込める場所で大量の電気をつくるのに適している反面、設備が大掛かりなうえ、騒音が大きく、風が乱れるため、市街地などへの設置は不向きである。
「RSETは地産地消を通じ、一般家庭やオフィスでの再生可能エネルギーの普及を目指しています。そこで現在はビルの屋上などを利用して効率よく電気をつくるケースを想定し、実用化に向けて研究しています。屋上のように限られたスペースで風向や風力が一定でない場所では、羽根が固定された風車より、風向に合わせて羽根の角度が変化する可変ピッチ式の垂直軸風車(上写真の模型)を複数設置するほうがエネルギーを有効に活用できます。ちなみに実物の羽根は長さ約2m、定格出力は約1kWです」(木綿教授)。

正確な騒音測定のため学生が自作した消音実験設備。出力センサーを取りつけている。

自前のエネルギーを

垂直軸タイプの風車は弱風(低回転)でも安定した出力が見込める。また、発電機を下部に置くため安定性も高い。写真の模型は翼の形状をした羽根と風見鶏のような風向計がセットになっている。木綿教授らはその構造に改良を重ねていった。「研究の結果、翼制御の軸(風向計)と発電機の軸を分け、この軸の間隔を風車運転中でも変えられる円筒カムという装置を2つ組み合わせた2軸2カム方式がよいとわかったんです」。
独自開発した出力制御方式では、風速2〜9mの低回転時に円筒カムが風向に対し翼制御軸と発電機軸を平行に並べ、発電効率を最大化する。一方で風速10m以上の高回転に移行すると、円筒カムが自動的に翼制御軸だけを当初の位置から移動させ、風車の回転数を下げる。この仕組みによって、強風時に安定した発電が可能となり、さらに風車の破損を防ぐのに役立つという。
今後の小型風力発電の一般化に向けた課題を木綿教授に聞いたところ、風車を低価格化しつつ、騒音の低減と耐久性の向上を図ることだと答えが返ってきた。
「これらの課題が解決すると実用化は急速に進むと思います。私は、日本の再生可能エネルギーのポテンシャルは高いと考えています。風力に加え廃熱や太陽光など、RSETで研究中の他の技術も加えて総合的に運用すれば、自前でエネルギーを賄える家庭やビル、オフィス街が誕生していくでしょう。技術力・発想力を生かし、再生可能エネルギーの安定運用を実現すべく、研究を進めています」。

こぼれ話

取材当日は2月でした。 北陸地方はまれに見る大雪で、石川県内の小・中学校は休校になり、隣の福井県内では国道で立ち往生する車が出るなど、混乱した状況でした。 新幹線が動いていたので金沢までは無事に着いたものの、今度は待てど暮らせどバスが来ません。タクシー乗り場は長蛇の列でした。日ごろから早めの移動を心がけていますが、今回ばかりは取材時間に少し遅れてしまいました。
ちなみにスーツの上にアウトドア用のレインコート、靴はトレッキングシューズと、完全装備で向かいましたが、吹き付ける雪で顔が痛くなりました。
写真はそのときの金沢大学の構内。雪で車が埋まっているのがお分かりいただけますでしょうか。ちなみにこの日の講義は休講になったそうです。
そんな状況の中、取材に応じていただいた木綿隆弘先生に改めて感謝申し上げます。

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